■この映画のご紹介
モダンホラーの巨匠スティーブン・キングの傑作『シャイニング』の40年後を描いた続編。かつてオーバールック・ホテルで起こった惨劇を生き延びた少年ダニー・トランスは、忌まわしい過去の記憶と、彼を苛む特別な力「シャイニング」を封印するため、アルコールに溺れる日々を送っていた。やがて彼は、小さな町で安らぎを見出し、ホスピスで「ドクター・スリープ」として死にゆく人々の最後を看取るようになる。しかし、同じく強力な「シャイニング」を持つ少女アブラと出会ったことで、彼の平穏は終わりを告げる。「シャイニング」を持つ子供たちを狩り、その生命エネルギー「スチーム」を糧に生きる邪悪な集団「トゥルー・ノット」の存在を知ったダンは、アブラを守るため、そして自らの過去と対峙するため、再びあの呪われたホテルへと向かうことになる。トラウマからの再生と依存症からの回復という重厚なテーマを、スリリングな超能力バトルと共に描いた傑作ホラーである。
■この映画で使われている会話表現とスラング
nothing up my sleeves
何も隠していません
nothing up my sleeves は、直訳すると「袖の中には何もありません」となり、「何も隠し事はしていません」「裏表はありません」「企みはありません」といった意味で使われる慣用句である。この表現の由来は、手品師が観客にトリックがないことを見せるために、袖をまくり上げて中が空であること示す決まり文句から来ている。そこから転じて、自分の誠実さや正直さをアピールしたい時に使われるようになった。ビジネスの交渉の場で I want to be transparent in this deal. Nothing up my sleeves.(この取引においては透明性を保ちたいのです。隠し事は一切ありません)のように使ったり、友人関係で疑われた際に I’m telling you the truth. Nothing up my sleeves.(本当のことを言っているんだ。何も隠してないよ)のように潔白を主張したりする場面で非常に効果的な表現だ。相手の警戒心を解き、信頼を得るための言葉として機能する。しかし、文脈によっては、この言葉を口にすること自体が、かえって何かを隠しているのではないかと相手に疑念を抱かせる可能性もあるため、使い方には注意が必要だ。類義語としては I have nothing to hide.(隠すことは何もない)や I’m being completely open with you.(君には完全にオープンだよ)などが挙げられる。
『ドクター・スリープ』では、邪悪な集団「トゥルー・ノット」のリーダーであるローズ・ザ・ハットが、最初の犠牲者となる少女ヴァイオレットに近づくシーンでこの表現が巧みに使われる。ローズは怪しむヴァイオレットの警戒心を解くため、魔術師のふりをして Take a look. Nothing in my hat, nothing up my sleeves…(見てごらん。帽子の中には何もないし、袖にも何も隠してない…)と語りかける。この言葉は、手品師が使う本来の意味で使われているが、ローズが恐ろしい計画を隠し持っていることを知っている観客にとっては、極めて皮肉的で不吉に響く。彼女の甘い言葉とは裏腹の邪悪な意図を際立たせ、これから起こる悲劇を予感させる重要なセリフとなっている。無垢な子どもを騙すために、信頼を勝ち取るための言葉を悪用するローズの冷酷さが、この一言に凝縮されているのである。
sonofabitch
クソ野郎/ひどい奴
sonofabitch は、文字通りには「雌犬の息子」を意味し、相手を侮辱するための非常に強いスラングである。日本語の「クソ野郎」「ろくでなし」などに相当し、怒りや軽蔑を表現する際に使われる。公式な場や初対面の相手に使うのは絶対に避けるべき言葉だが、映画やドラマでは頻繁に登場する。その語気の強さから、キャラクターの激しい感情を端的に示すのに効果的だ。例えば、裏切られた時に That lying sonofabitch!(あの嘘つき野郎!)と叫んだり、不運に見舞われた時に Sonofabitch! と悪態をついたりする。一方で、非常に親しい友人同士の間では、愛情や驚きを込めた冗談として使われることもある。You lucky sonofabitch, you won the lottery?(この幸運な野郎め、宝くじに当たったのか?)のように、羨望や親しみを込めて使われる場合は、必ずしも侮辱的ではない。このように、使われる文脈や口調によって意味合いが大きく変わるのがこのスラングの特徴である。アメリカ英語では son of a bitch と三語で表記されることも多い。同様の強いスラングには bastard や asshole などがあるが、sonofabitch は特にアメリカ文化に根付いた表現と言えるだろう。
『ドクター・スリープ』では、ダンにかつて「シャイニング」の使い方を教えたディック・ハロランが、自身の辛い過去を語るシーンでこの言葉を使う。ディックは、虐待を繰り返した祖父について My grandfather, he was a mean sonofabitch.(俺のじいさんは、意地悪なクソ野郎だった)と語る。ここでの sonofabitch は、祖父の非道で残酷な性格を凝縮して表現するための言葉であり、ディックが抱えてきた深い心の傷と憎しみをうかがわせる。mean(意地悪な、卑劣な)という形容詞と組み合わせることで、その侮蔑の意味合いはさらに強調されている。彼がどれほどひどい扱いを受けてきたかを、この一言が雄弁に物語っている。映画の中でキャラクターの過去や性格を深く掘り下げる上で、こうしたスラングが非常に効果的に機能している好例と言える。
