■この作品のご紹介
本作は、謎めいた巨大企業Lumonインダストリーを舞台に、「セビアランス(分離)」と呼ばれる、仕事中の記憶と私生活の記憶を完全に分離する手術を受けた人々の物語を描くスリラーである。エピソード210では、主人公Markの「イニー(仕事中の人格)」が、会社の外にある「出産小屋」で目を覚ますという衝撃的な場面から始まる。そこで彼は、死んだはずの妻GemmaがLumonによって生かされており、会社の機密施設に囚われているという驚愕の事実を知らされる。Markの姉Devonと、元上司でありながら謎の多いCobelから、Gemmaを救出する計画への協力を求められたMarkは、自身の「アウティ(私生活の人格)」との対話を通じて、仲間たちと築き上げたイニーとしての人生と、愛する妻を救うという使命の間で究極の選択を迫られることになる。
■この作品で使われている会話表現とスラング
Her blood goes cold
血の気が引く
Her blood goes cold は、恐怖や衝撃、強い不安を感じたときに「血の気が引く」「ぞっとする」という感覚を表現するイディオムである。文字通り、恐怖で体温が下がり、血が冷たくなるような身体的感覚を比喩的に表している。主に物語や文章の描写で使われることが多いが、日常会話で過去の体験を語る際にも使うことができる。例えば、My blood went cold when I heard a strange noise downstairs at midnight.(真夜中に階下で奇妙な物音を聞いたとき、血の気が引いた)のように用いる。
この表現は、主語を変えることで誰にでも適用できる。His blood went cold.(彼の血の気が引いた)、My blood ran cold. のように run を使うこともあるが、意味は同じである。このイディオムは、単に「怖かった」と言うよりも、その恐怖の質や深刻さをより鮮明に、そして文学的に伝える効果がある。例えば、When the police officer called my name, my blood went cold.(警察官に名前を呼ばれたとき、ぞっとした)のように、悪い予感が的中した瞬間などを表現するのに非常に適している。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、この表現は台詞ではなく、脚本の「ト書き」と呼ばれる状況説明の部分で使われている。オフィスに一人でいたHellyの前に、予期せず父親であるCEOのJame Eaganが現れる場面だ。脚本には Her blood goes cold. と書かれており、Hellyが感じたであろう突然の恐怖と衝撃、そして父に対する複雑な感情(おそらく嫌悪や警戒心)を端的に示している。この一文だけで、視聴者はHellyの視点に立ち、彼女の内心を瞬時に理解することができる。映像作品において、俳優の表情や演技を導くト書きの重要性がよくわかる例である。
choke out (someone/something) for good
(人や物事)を完全に終わらせる/息の根を止める
choke out は、文字通りには「首を絞めて意識を失わせる」「息の根を止める」という意味を持つが、比喩的に「何かを完全に終わらせる」「根絶やしにする」という意味でも使われる非常に強い表現である。ビジネスや競争の文脈で、競合他社を市場から完全に排除するような状況を指して使うことがある。例えば、The mega-corporation is trying to choke out all the small local businesses.(その巨大企業は、地元の小さなビジネスをすべて潰そうとしている)のように用いる。
for good は「これを最後に」「永遠に」という意味を持つイディオムで、一時的ではなく、恒久的・決定的な変化を表す。I’m quitting smoking for good.(これを機に完全にタバコをやめる)のように、強い決意を示す際によく使われる。
この二つの表現が組み合わさった choke out … for good は、「~を永遠に葬り去る」「~の息の根を完全に止める」という、極めて強い決意や憎しみを込めた表現となる。日常会話で軽々しく使う言葉ではないが、物語の中で登場人物の強い感情を示すために効果的に使われる。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、LumonのCEOである父親Jameと対峙したHellyがこの表現を使う。Jameが過去のパーティでの彼女のスピーチを皮肉っぽく評価したのに対し、Hellyは What are you gonna throw when I choke out your company for good?(私があなたの会社を永遠に葬り去ったときには、何を投げるつもり?)と言い返す。これは、彼女がLumonという会社とその思想を心の底から憎んでおり、それを完全に破壊するという揺るぎない決意を持っていることを示している。彼女の反骨精神と、父親への敵意が凝縮された非常にパワフルな台詞である。
Do you get that a lot?
それ、よく言われる?
Do you get that a lot? は、直訳すると「あなたはそれをたくさん受け取りますか?」となるが、口語では「それ、よく言われるでしょう?」という意味で使われる非常に一般的なフレーズである。主に二つの状況で使われる。一つは、相手の長所や特徴を褒めた後で、付け加えるように使う場合。例えば、You have a great smile. Do you get that a lot?(素敵な笑顔ですね。よく言われるでしょう?)のように、褒め言葉を強調し、会話を和ませる効果がある。
もう一つは、皮肉やからかいとして使う場合である。相手の奇妙な言動や好ましくない特徴を指摘した後に、Do you get that a lot? と付け加えることで、「(あなたがおかしいのは周知の事実で)他の人からも同じことを言われているでしょうね」という痛烈な皮肉になる。どちらの用法かは、文脈や話者の口調によって判断する必要がある。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、後者の皮肉として使われている。父親Jameの常軌を逸した言動にうんざりしたHellyが、God, you’re fucking weird. Do you get that a lot?(信じられない、あんたマジで変。それ、よく言われる?)と言い放つ。これは単に「あなたは変だ」と指摘するだけでなく、「その異常さは誰の目にも明らかで、これまでも多くの人から指摘されてきたでしょう」という軽蔑のニュアンスを含んでいる。彼女の父親に対する冷めきった感情と、彼の異常性を全く受け入れていない態度がよく表れたセリフだ。この一言で、二人の親子関係が極めて歪であることを示唆している。
Her silence speaks volumes
彼女の沈黙は雄弁に物語る
speak volumes は「雄弁に物語る」「多くを物語る」という意味のイディオムである。言葉にしなくても、表情、態度、行動、あるいは物事の状況そのものが、非常に多くの情報や感情を伝えていることを表現する際に使われる。やや文学的で洗練された表現だが、日常会話でも十分に使うことができる。例えば、The empty playground on a sunny day spoke volumes about the community’s fear.(晴れた日の誰もいない公園は、地域社会の恐怖を雄弁に物語っていた)のように使う。
主語には、silence(沈黙)、a look(表情)、an action(行動)など、さまざまなものを置くことができる。When I asked about her past, her sad smile spoke volumes.(彼女の過去について尋ねたとき、その悲しげな微笑みが多くを物語っていた)のように、言葉以外のコミュニケーションの重要性を示す際に非常に便利な表現である。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、この表現もト書きで使われている。イニーMarkがCobelに対して、もしLumonが終わったら、自分たちイニーはどうなるのかと尋ねる場面。Cobelは何も答えない。その状況を脚本は Her silence speaks volumes. と描写している。彼女の沈黙は、イニーたちに待っているであろう悲惨な運命、つまり彼らの「死」や「消滅」を暗示している。言葉で説明する以上に、この沈黙はMark(そして視聴者)に絶望的な未来を突きつける。登場人物の答えられない、あるいは答えたくないという葛藤や、状況の深刻さを伝える上で非常に効果的な脚本術である。
call bullshit
嘘だと言う/でたらめだと見抜く
call bullshit on (something) は、「(何かが)でたらめだと言う」「嘘っぱちだと非難する」という意味の非常に口語的で強いスラング表現である。bullshit(牛の糞)という単語自体が「たわごと」「でたらめ」を意味する俗語であり、それを call(指摘する、見なす)することで、相手の主張や言い分を真っ向から否定するニュアンスを持つ。非常にインフォーマルな表現なので、ビジネスの場や目上の人に対して使うのは避けるべきだが、友人同士の会話や、感情を露わにする場面では頻繁に使われる。
例えば、He claimed he was a war hero, but his friends called bullshit on his stories.(彼は戦争の英雄だと主張したが、友人たちは彼の話をでたらめだと指摘した)のように使う。I’m calling bullshit on that excuse.(その言い訳は嘘っぱちだ)というように、主語を自分にして直接的に相手に言うこともできる。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、アウティMarkがイニーMarkの反応について説明する場面で登場する。アウティMarkは、イニーとアウティが統合されて一つの人格になる「reintegration」という可能性をイニーMarkに提示した。しかし、イニーMarkはその話を信じなかった。そのことをアウティMarkは I brought up reintegration and he basically called bullshit.(再統合の話を持ち出したら、彼は基本的にそれを嘘っぱちだと言った)とDevonに報告している。イニーMarkが抱いているアウティへの根深い不信感と、Lumonやアウティ側から与えられる情報すべてを疑ってかかる彼の警戒心の強さを、この call bullshit という一言が端的に表している。
Stay the path
道を外れるな/その調子で進め
Stay the path は、直訳すると「その道にとどまれ」となり、比喩的に「決めた方針や目標から逸れずに進み続けなさい」という意味で使われる表現である。困難や誘惑があっても、信じる道を歩み続けるように励ますときや、アドバイスとして使われることが多い。指導者やメンターが使うような、少し格式のある響きを持つが、友人同士で励まし合う際にも使える。例えば、Becoming a doctor is hard, but you have to stay the path.(医者になるのは大変だが、道を外れずに進まなければならない)のように使う。
Keep on the right track. や Stick to the plan. と似た意味を持つが、Stay the path の方がより長期的で、人生の指針や哲学的な道筋を指すニュアンスが強い。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、謎めいたCEOであるJame Eaganが、娘であるHellyのイニーに対してこの言葉を使う。彼はHellyの反抗的な態度やLumonを破壊しようとする意志を非難するどころか、Stay the path, little mouse.(その道を進め、小さなネズミくん)と、むしろそれを促すかのような言葉をかけて去っていく。これは非常に不気味なセリフであり、Jameが何か壮大な計画を持っていて、Hellyの反逆すらもその計画のうちだと考えていることを示唆している。彼にとって、Hellyが辿っている「道」は、彼が望む未来へと繋がっているのかもしれない。この一言が、物語の謎を一層深めている。
in rapt attention
うっとりと/夢中になって
rapt は「心を奪われた」「うっとりした」「夢中になった」という意味の形容詞である。in rapt attention は「夢中になって聞き入って(見入って)いる」状態を表す表現で、何かに完全に集中し、周りのことが目に入らないほど魅了されている様子を描写する。音楽会で演奏に聞き惚れている聴衆や、面白い話に引き込まれている子どもたちなどを表現するのに適している。
例えば、The children listened to the storyteller with rapt attention.(子どもたちは物語の語り手の話に夢中になって耳を傾けた)や、The audience watched the final scene of the play in rapt attention.(観客は劇の最終場面を固唾をのんで見守った)のように使う。pay rapt attention という言い方も可能である。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、Lumonの施設で働くDrummondとMauerが、Markの作業を監視している場面のト書きで使われている。彼らは、Markが最後のファイル「Cold Harbor」を完成させる様子を …watch the feed of Mark’s console in rapt attention…(Markのコンソールの映像に夢中になって見入っている)と描写されている。この表現は、彼らが単に監視しているだけでなく、その歴史的な瞬間を興奮と期待を持って見守っていることを示している。Markの作業がLumonにとって極めて重要な意味を持つ出来事であることが、この in rapt attention という言葉から伝わってくる。
deer in headlights
(ヘッドライトに照らされた鹿のように)立ちすくむ
like a deer in headlights(または a deer in the headlights)は、突然の危険や予期せぬ出来事に直面し、恐怖や驚きで身動きが取れずに固まってしまう様子を表す非常に一般的なイディオムである。夜道で車のヘッドライトに照らされた鹿が、逃げることもできずにその場で立ちすくんでしまう姿に由来する。
この表現は、文字通り物理的に固まってしまう様子だけでなく、質問に答えられなかったり、プレッシャーで頭が真っ白になったりする心理的な状態を表すのにも使われる。例えば、When the teacher asked him a difficult question, he just stood there like a deer in headlights.(先生に難しい質問をされたとき、彼はただヘッドライトに照らされた鹿のように立ちすくんでいた)のように用いる。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、イニーMarkがGemmaを救出するために隠された通路を進んでいる最中に、予期せずDrummondに遭遇してしまう場面のト書きで使われている。脚本には Oh fuck. Deer in headlights. と書かれており、絶体絶命の状況に陥ったMarkの衝撃と、どうしていいか分からず固まってしまった様子を端的に描写している。この一言で、Markが完全に不意を突かれ、パニックに陥っていることが視聴者に伝わる。危機的な状況における人間のフリーズ反応を的確に捉えた表現である。
step off, fucko
下がれ、この野郎
step off は、口語で「下がれ」「引け」「あっちへ行け」という意味の命令表現である。back off と同じような意味で使われるが、より直接的で強い拒絶のニュアンスを持つ。相手に物理的に距離を取るように要求する場合や、口論などで相手に「もう関わるな」と伝える際に使われる。
fucko は、fuck という卑語から派生した極めて侮辱的な呼びかけで、「この野郎」「クソったれ」といった意味合いを持つ。非常に攻撃的で、相手に対する強い敵意や軽蔑を示す言葉であるため、実生活で使うことは絶対に避けるべきである。映画やドラマでは、登場人物の荒々しい性格や、極度に緊迫した状況を表現するために使われることがある。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、MarkがGemmaのいる「Cold Harbor」の部屋の前にたどり着き、そこにいたLumonの職員Cecilyにドアを開けるよう要求する場面で、彼女がこのセリフを言い放つ。Markが血まみれで武器(のようなもの)を持っているのを見て、彼女は Step off, fucko. と言って彼を威嚇する。これは彼女の恐怖と、同時に職務を全うしようとする強い意志の表れである。この非常に下品で攻撃的な言葉遣いが、Lumonの職員が決して従順なだけではないこと、そして状況がいかに切迫しているかを物語っている。
give someone the bird
(人)に中指を立てる
give someone the bird は、相手に対して中指を立てるという侮辱的なジェスチャーを指すアメリカ英語のスラングである。このジェスチャーは、強い軽蔑、怒り、反抗の意思表示として世界中の多くの文化で認識されている。the bird がなぜ中指を立てるジェスチャーを指すのか、その由来は諸説あるが、広く使われている表現である。同じ意味の表現として flip someone off や flip someone the bird も非常によく使われる。
例えば、The driver in the other car got angry and gave me the bird.(もう一台の車の運転手は怒って、私に中指を立てた)のように使う。台詞としてだけでなく、ト書きで登場人物の行動を説明する際にも頻繁に用いられる。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、Dr. Mauerがエレベーターで逃げるMarkとGemmaに向かって You’re happier here!(ここにいる方が幸せなんだ!)と叫ぶ場面で登場する。それに対し、Gemmaは彼に中指を立てる。脚本では She gives him the bird as the elevator door shuts.(エレベーターのドアが閉まる際に、彼女は彼に中指を立てる)と描写されている。この行動は、Lumonの偽善的な思想(「ここにいる方が幸せだ」)に対するGemmaの完全な拒絶と、自由への強い渇望を象徴している。言葉を発することなく、一つのジェスチャーで彼女の反抗心を痛快に表現したシーンである。
take (someone/something) down
(人や組織)を打ち負かす/倒す
take down は非常に多義的な句動詞だが、文脈によっては「(人や組織を)打ち負かす」「倒す」「解体する」という意味で使われる。特に、権力を持つ相手や巨大な組織を、その地位から引きずり下ろしたり、活動を停止させたりするような状況を指す。The investigation revealed enough evidence to take down the corrupt government.(その調査は、腐敗した政府を倒すのに十分な証拠を明らかにした)のように使う。レスリングなどの格闘技で相手を倒して地面に組み伏せることも take down と言う。
類義語として bring down や overthrow などがあるが、take down はより口語的で、直接的な行動によって相手を無力化するニュアンスが強い。
『COLD HARBOR – Ep. 210』では、この表現自体は直接使われていないが、同様の文脈で end them という言葉が登場する。Markの姉DevonがイニーMarkを説得する場面で、Proving Gemma’s alive, that they actually kidnapped her– it would end them.(Gemmaが生きていること、彼らが彼女を誘拐したことを証明すれば、それは彼ら(Lumon)を終わらせるだろう)と語る。ここで言う end them は、まさに take down Lumon と同じ意味であり、Lumonという巨大企業の存在を社会的に終わらせる、つまり解体に追い込むことを指している。この計画が単なる一人の救出作戦ではなく、巨大な敵との全面戦争であることを示唆しており、物語のスケールの大きさを感じさせる重要なセリフである。

こんにちは、ゆぶろぐです。
映画の英語は、学習教材と違って、学習者向けに手加減された英語ではありません。生の英語が飛び交っています。一見、難しいように聞こえますが、次第にストーリーの展開に心を奪われながら、英語とストーリーの両方の魔力に引きつけられていくのです。▶映画は、普段日常生活では接することのない、様々な場面に誘ってくれます。その中で交わされている英語には、学校で学ぶ英語と少しばかり違った、口語表現やスラングがあふれています。▶このサイトでは、その独特の口語表現やスラングを主に映画から探してきて、紹介しています。中には、危険なフレーズや下品な言い回しもあえて取り上げてみました。それらは、実際に使うとアブナイものも含まれていますから、それは「知っていく」程度にとどめておいてください。
本名、吉成雄一郎(よしなりゆういちろう)。株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。専門は英語教授法。英語学習や英語教育に関する論文、著書、記事多数。
