■この映画のご紹介
2017年、ニューヨーク・タイムズの二人の女性記者、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーは、ハリウッドに数十年にわたり君臨してきた大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行疑惑の調査を開始する。しかし、被害女性たちは示談契約やトラウマから口を閉ざし、調査は難航する。二人は、沈黙を強いられてきた女性たちの声に耳を傾け、数々の妨害に屈することなく、巨大な権力構造に立ち向かっていく。本作は、世界的な#MeToo運動の火付け役となった調査報道の舞台裏を、実話に基づいてスリリングに描いた社会派ドラマの傑作である。
■この映画で使われている会話表現とスラング
on your own
独力で/自分一人で
on your own は「独力で」「自分一人で」「誰の助けも借りずに」という意味を持つ、非常に広く使われる基本的な慣用句である。own が「自身の」という所有を強調する言葉であることから、「他者の介入なく、自分自身の力だけで」というニュアンスが強く含まれている。文脈によって、自立や独立といったポジティブな意味で使われることもあれば、孤立や孤独といったネガティブな意味で使われることもある。例えば、He built the business on his own.(彼は独力でその事業を築き上げた)という文では、彼の努力と能力を称賛するポジティブな響きがある。一方で、After his parents passed away, he was left all on his own.(両親が亡くなった後、彼は一人きりになってしまった)という文では、孤独や心細さを表現するネガティブな意味合いで使われる。
日常会話では様々な場面で登場する。子どもが初めて何かを一人でできた時に You did it all on your own!(全部一人でできたね!)と褒めたり、友人が困難な状況にあるときに I don’t want to leave you on your own.(君を一人にはしておけないよ)と気遣ったりする。ビジネスの場面でも、I think I can handle this project on my own.(このプロジェクトは私一人で対応できると思います)のように、自律性や能力を示すために使われることがある。live on one’s own で「一人暮らしをする」という意味になるのも覚えておきたい。
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』では、この表現が非常に重い意味を持って使われる。物語の序盤、ミーガン・トゥーイー記者が、後に大統領となるドナルド・トランプからのセクハラ被害を告発すべきか悩む女性レイチェル・クルックスに取材するシーンがある。レイチェルが「もし彼が訴訟を起こしたら、ニューヨーク・タイムズは助けてくれるのですか?」と尋ねたのに対し、ミーガンは News organizations can’t provide legal support. You’d be on your own.(報道機関は法的な支援はできません。あなたは独力で戦うことになります)と答える。この台詞は、声を上げようとする被害者が直面する過酷な現実を突きつける。巨大な権力と財力を持つ相手から訴えられた場合、報道機関は情報源を守ることはできても、その後の法廷闘争で個人を金銭的・法的に支援することはできない。つまり、告発者は社会的な非難や法的な報復のリスクを、たった一人で背負わなければならないのだ。この on your own という一言は、被害者が声を上げることの恐怖と、それでもなお真実を語ろうとする人々の勇気の大きさを浮き彫りにしている。ジャーナリストとして、情報提供者が負うリスクを正直に伝えなければならないミーガンの苦悩も感じられる、非常に重要な場面である。
throw me some red meat
(支持者が喜ぶような)扇情的な情報をくれ/何か実のある情報をくれ
throw someone some red meat は、元々「(猛獣に)生肉を投げて興奮させる」というイメージから来た比喩表現である。政治の文脈で使われることが多く、政治家が自らの支持層(特に保守的なコア層)を喜ばせるために、扇情的で感情に訴えかけるような発言や政策を打ち出すことを指す。中身のある議論よりも、支持者の溜飲を下げたり、一体感を高めたりすることが目的であり、しばしばポピュリズム的な手法と見なされる。例えば、A politician might throw some red meat to his base by promising stricter immigration laws.(政治家は、より厳しい移民法を約束することで、支持層に迎合的な発言をするかもしれない)のように使われる。
しかし、この表現は政治以外の文脈でも使われる。ビジネスやジャーナリズムの世界では、「手応えのある情報」「核心に迫るような、皆が食いつきたくなるネタ」といった意味で使われることがある。議論が停滞している会議で、皆の関心を引き、議論を活性化させるような刺激的なアイデアを出すことも「red meat を投げる」と表現できるかもしれない。
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』では、後者の意味合いでこの表現が使われている。調査が難航し、具体的な成果がなかなか見えない中、編集者のレベッカ・コルベットが、記者のジョディとミーガンに対して進捗を尋ねる場面で What’ve you got? Throw me some red meat.(何か掴んだ?何か実のある情報をちょうだい)と言う。ここでの red meat は、単なるゴシップや噂ではなく、記事の核心となりうる、確かな手応えのある「生々しい情報」や「決定的な証拠」を指している。編集者として、記者たちを鼓舞し、調査を前進させたいというレベッカの焦りと期待が込められた一言だ。ジャーナリストたちが、いかにして確かな情報を追い求めているか、その執念とプロフェッショナリズムが感じられる表現である。この映画は報道の現場をリアルに描いているが、このような業界特有の比喩表現が、そのリアリティをさらに高めている。日常会話で使うには少し強い表現かもしれないが、チームで何かを成し遂げようとしている時に、仲間に対して「何かすごいアイデアはないのか?」と発破をかけるようなニュアンスで使うことができるだろう。
