■この映画のご紹介
舞台はアメリカの保守的な郊外の町、セイラム。謎のハッカー「エロストラタス」が市長や校長など町の有力者のプライベートデータを次々と暴露し、町全体が混乱に陥る。そんな中、18歳の少女リリー・コルソンとその友人たちが突然ハッカーの犯人として疑われ、怒れる暴徒に追い回されることになる。サム・レヴィンソン監督が2018年に発表した本作は、SNS時代のプライバシー、スラットシェイミング、ジェンダー差別、集団ヒステリーをテーマに、バイオレンスとブラックユーモアを交えて描いたスリラー映画である。現代アメリカの暗部をえぐる問題作として公開当時に大きな話題を呼んだ。
■この映画で使われている会話表現とスラング
fuckboy
誠実さに欠ける男/ヤリ捨てするタイプの男
fuckboy(ファックボーイ)は2010年代にSNSで急速に広まったスラングで、自分の利益だけを考えて女性と関係を持ち、誠実さや責任感に欠ける男性を指す。外見や立場を利用して相手を傷つけるタイプの男全般に使われる言葉だ。同様の表現に player(遊び人)や douche(嫌なやつ)があるが、fuckboy はより若者的なニュアンスを持つ。 He texted me for a month and then ghosted me. Total fuckboy.(1ヶ月もLINEしてきて急に無視するようになった。完全にfuckboyだ)や I’m not interested in dating anymore, every guy I meet is such a fuckboy.(もう誰も付き合いたくない、会う男みんなfuckboyだ)のように使う。SNSやTikTok、若者の日常会話で非常によく耳にする表現だ。 『邦題なし』では、リリーが自分の状況について語りながら Ew. No. The fuckboy.(違う。fuckboyの方よ)と答える場面がある。友人たちがリリーの彼氏マークについて、誰かに指をのどに突っ込まれたのかと聞いた際の返答だ。マークが交際相手でありながら誠実さに欠けると示唆するこの一言に、リリーの彼氏に対するある種の冷めた視線が表れている。fuckboy という言葉を使うことで、相手を侮辱しつつも笑いに変える若者言葉の機能がよく表れている場面だ。
creepy / rapey
気持ち悪い/強姦魔っぽい雰囲気の
creepy は「気持ち悪い」「不気味な」という形容詞で、主に人や雰囲気に使われる。ストーカー的な行動や過度に馴れ馴れしい態度に対して使われることが多い。一方、rapey はレイプ(性的暴行)を連想させる言動や雰囲気を持つ人に対する俗語で、かなり強い非難を含む言葉だ。公的な文章では使わないが、若者の会話では性的に不快な言動をする男性に対して用いられる。 He kept staring at me all night. So creepy.(ずっと私を見ていた。本当に気持ち悪い)や There’s something rapey about the way he talks to women.(彼の女性への話し方はちょっとやばい感じがする)のように使われる。日本語には直訳しにくいが、性的なハラスメントに近い不快感を表す表現として理解するとよい。 『邦題なし』では、エムの母親の交際相手について、リリーが He’s super duper rapey.(あの人、マジでやばい雰囲気)と言い、エムが It’s true. He’s really rapey.(本当に。すごくそういう感じ)と同意する場面がある。二人が男性を直接批判するのではなく、スラングを使って感覚的に共有する様子は、若い女性たちが自分たちを守るために発達させたコミュニケーションのあり方を映し出している。べックスが rape jokes について抗議する場面との対比も興味深い。
