■このドラマのご紹介
1876年、ゴールドラッシュに沸くサウスダコタの無法地帯「デッドウッド」。そこはアメリカ政府の管轄外にあり、法も秩序も存在しない欲望の吹き溜まりであった。この町を舞台に、元保安官のセス・ブロック、冷酷非情な賭博場の主アル・スウェランジェン、伝説のガンマンであるワイルド・ビル・ヒコックなど、歴史上の人物をモデルにしたキャラクターたちが、富と権力を巡って激しくぶつかり合う。HBOが制作したこのドラマは、単なる西部劇の枠を超え、暴力と混沌の中から文明がいかにして生まれるかという壮大なテーマを、生々しく、そして詩的に描き出す。脚本家デヴィッド・ミルチによる、シェイクスピア劇を彷彿とさせる格調高い罵詈雑言の応酬は圧巻であり、その言語感覚は海外ドラマ史に残るものと評価されている。
■このドラマで使われている会話表現とスラング
bust a gut laughing
腹を抱えて大笑いする、爆笑する
bust a gut は「腹が張り裂けるほど」という意味の非常に口語的で大げさな表現である。gut は「腸」「はらわた」といった内臓を指す言葉で、それが bust (破裂する) ほど笑う、という比喩から「大爆笑する」という意味で使われる。laughing を伴って bust a gut laughing という形で使われることが多いが、bust a gut だけでも「全力を尽くす」「死ぬ気で頑張る」といった意味にもなる。例えば、I was busting a gut to finish the project on time.(そのプロジェクトを時間通りに終わらせるために死ぬ気で頑張っていた)のように使うことができる。しかし、laughing と共にある場合は、例外なく「爆笑」を意味する。
この表現は、laugh one’s head off (首がもげるほど笑う) や split one’s sides (脇腹が裂けるほど笑う) といった他の大げさな表現と似ており、感情の激しさを伝えるのに非常に効果的だ。フォーマルな場ではまず使われない、非常にインフォーマルなスラングである。友人同士の会話で、「昨日のコメディショーは最高だったよ。腹を抱えて笑ったね」と言いたいときに、The comedy show last night was hilarious. I was busting a gut laughing. のように使うと、その面白さが生き生きと伝わるだろう。
『デッドウッド』では、シーズン1の第3話冒頭、金鉱掘りのエルズワースが自分の犬に話しかけるシーンでこの表現が登場する。エルズワースは、犬が追いかけていたウッドチャックが巣穴に逃げ込んだのを見て、you better hope he ain’t got space enough to roll around and hold his sides and bust a gut laughing.(あいつが寝っ転がって脇腹を抱えて大爆笑するほどのスペースが穴の中にないといいな)と語りかける。これは、ウッドチャックが犬の追跡を「朝の娯楽」程度にしか思っておらず、仲間たちに武勇伝として語るだろう、という皮肉のこもった独り言だ。孤独な金鉱掘りが動物を擬人化し、人間社会の出来事のように語るこのセリフは、彼のユーモアのセンスと、荒野で暮らす男の哀愁を見事に表現している。bust a gut laughing という非常に俗な表現を使うことで、エルズワースというキャラクターの飾らない人柄が浮かび上がる名シーンである。
on the wane
衰えかけて、弱まってきている
on the wane は、力、影響力、人気、感情などが徐々に衰えたり、弱まったりしている状態を表す表現である。wane という単語は、もともと月が満ちた状態から欠けていく様子を指す言葉だ。the moon is waning と言えば「月が欠けてきている」という意味になる。この天体の動きから転じて、様々なものがピークを過ぎて下降線を描いている状態を指す、詩的でやや文語的な言い回しとして定着した。
日常会話では、His political influence is on the wane.(彼の政治的影響力は衰えつつある)や Public interest in the scandal is now on the wane.(そのスキャンダルに対する世間の関心は今や薄れてきている)のように使われる。enthusiasm is on the wane(熱意が冷めつつある)という言い方もよく耳にする。対義語は on the rise(上昇中で)や on the increase(増加中で)などがある。非常に洗練された響きを持つ表現なので、ビジネスのプレゼンテーションや文章などで使うと、知的な印象を与えることができるだろう。
『デッドウッド』では、ベテラン金鉱掘りのエルズワースと、スウェランジェンの手下であるダン・ドリティの会話の中に登場する。ダンは、金鉱詐欺に遭ったとも知らずに金探しに熱中している東部出身のブロム・ギャレットを待っていた。しかしブロムが現れないため、エルズワースは S’pose his enthusiasm’s on the wane?(彼の熱意も衰えてきたかね?)とダンに尋ねる。これは、素人であるブロムが、厳しい金鉱掘りの現実に直面し、当初のやる気を失い始めているのではないか、というエルズワースの推測である。on the wane という少し古風で文学的な表現を使うことで、無学に見えるエルズワースが実は鋭い観察眼と豊かな表現力を持っていることを示唆している。この一言が、彼のキャラクターに深みを与えている。
