■このドラマのご紹介
1876年、ゴールドラッシュに沸くサウスダコタ州の無法地帯「デッドウッド」。法も秩序も存在しないこの町に、一攫千金を夢見る者、過去から逃れる者、そして権力を求める者たちが集う。元保安官のセス・ブロック、伝説のガンマンであるワイルド・ビル・ヒコック、そして町を牛耳る冷酷非情なサルーン経営者アル・スウェランジェン。彼らの運命が交錯する中で、欲望、暴力、裏切りが渦巻く人間ドラマが繰り広げられる。本作は、史実をベースに、HBOが製作した骨太な西部劇である。クリエイターのデヴィッド・ミルチによる、冒涜的でありながら詩的でさえある独特のセリフ回しは、本作を唯一無二の作品に押し上げている。今回解説するのは、そのシーズン1・エピソード2のスクリプトである。
■このドラマで使われている会話表現とスラング
What in fuck is going forward
一体全体、何が起こっているんだ
What in fuck is going forwardは、What the fuck is going on?(一体何が起こっているんだ?)をさらに強調した、非常に強い驚きや苛立ちを表す表現である。in fuckという部分が強調の役割を果たしており、通常のwhat the fuckよりもさらに強い感情、特に混乱や怒りを込めたニュアンスを持つ。また、going onの代わりにgoing forwardを使っている点も興味深い。going forwardは通常「今後」「これから先」といった未来志向の意味で使われるが、ここでは「(事態が)どのように進展しているのか」という意味合いで使われており、スウェランジェンの苛立ちと、事態の全容を把握できていないことへの焦りが表れている。この表現は極めてインフォーマルで、品位に欠けるため、公の場やフォーマルな会話で使われることは絶対にない。親しい友人同士の会話や、感情が激した場面でのみ使われる罵り言葉の一種と考えるべきである。
『デッドウッド ~銃とSEXとワイルドタウン』では、サルーンの経営者であり町の支配者であるアル・スウェランジェンが、朝目覚めて早々、前夜から続くキャンプの騒乱について苛立ちを募らせている場面でこのセリフを口にする。彼はFarnumに対してI’d like someone to tell me what in fuck is going forward in this camp.(誰かこのキャンプで一体何が起こっているのか教えてもらいたいもんだ)と言い放つ。自分の支配下にあるはずの町で、自分の知らないところで次々と事件が起きていることへの強い不満と、情報を持ってこない部下への怒りが凝縮された一言だ。このセリフは、スウェランジェンの短気で支配的な性格を端的に示している。
現代の日常会話でこの表現をそのまま使う機会はほとんどないが、What the hell is going on?やWhat on earth is happening?などが、より一般的で穏やかな代替表現として挙げられる。映画やドラマでは、キャラクターの荒々しさや状況の深刻さを表現するために、このような強調された罵り言葉が効果的に使われる。例えば、非常に混乱した状況に置かれた友人がWhat in fuck is happening right now?(今、一体何が起きてるんだ?)と叫ぶような場面が考えられる。学習者としては、このような表現を聞き取れるようになることは重要だが、自ら使うことは避けるべきだろう。
Squarehead
スカンジナビア系(特にドイツ人やスウェーデン人)への蔑称
Squareheadは、主にドイツ人やスカンジナビア出身の人々を指す、極めて侮蔑的なスラングである。文字通りには「四角い頭」を意味し、彼らの頭蓋骨の形が四角いというステレオタイプに基づいた人種差別的な表現だ。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、特に第一次世界大戦中には敵国であるドイツ兵を指す言葉として広く使われた。この言葉は、相手を非人間的で愚鈍な存在として描き、敵意を煽るプロパガンダの一部としても機能した。現代においては完全に時代遅れであり、使うことは絶対に許されない差別用語である。このような言葉が使われていた歴史的背景を理解することは、過去の社会における人種や民族に対する偏見のあり方を学ぶ上で重要である。
『デッドウッド ~銃とSEXとワイルドタウン』では、この言葉が複数回登場する。例えば、Farnumがスウェランジェンに、ノルウェー系の移民一家が虐殺された事件の生存者について報告する場面で、one of them hardware guys you’re renting to threw down on the fella ‘brought word in of that Squarehead family’s massacre.(あんたが貸してる金物屋の一人が、あの四角頭一家の虐殺の知らせを持ってきた男に銃を抜いた)と言う。また、スウェランジェンが事件の真相を探る中で、部下のJohnny Burnsにwasn’t Sioux killed them Squareheads but Persimmon Phil, Tom Mason…(スー族があの四角頭どもを殺したんじゃなく、パーシモン・フィルとトム・メイソンだ…)と語る場面もある。これらのセリフは、1870年代のアメリカ西部という、様々な人種や民族が混在し、同時に差別や偏見が根強く存在した社会の空気をリアルに描き出している。登場人物たちが当たり前のようにこの言葉を口にすることで、当時の人々が持っていた異文化への無理解や排他性が浮き彫りにされる。
現代社会でこの言葉を使うことは、深刻な侮辱と受け取られる。したがって、日常会話で使うことは絶対に避けるべきである。しかし、歴史映画や文学作品を鑑賞する際には、このような言葉が持つ歴史的・文化的な文脈を理解することで、作品の時代背景や登場人物の価値観をより深く読み解くことができる。学習者としては、言葉の意味だけでなく、それが使われていた時代や社会の状況まで含めて学ぶ姿勢が求められる。
