■この映画のご紹介
ヘビー級チャンピオンの座に君臨し、ボクシング界から引退したアドニス・クリード。彼はプロモーターとして後進の育成に励み、妻ビアンカと娘アマラと共に順風満帆な生活を送っていた。しかし、そんな彼の前に、一人の男が現れる。彼の名はデイミアン・アンダーソン。かつてアドニスが兄弟同然に育ち、共にボクシングの腕を磨いた幼なじみだった。18年間の刑務所生活を終えたデイミアンは、奪われた時間を取り戻すかのように、かつての夢であった世界チャンピオンのベルトを渇望する。アドニスは罪悪感から彼に手を差し伸べるが、デイミアンの野心と過去への恨みは、やがて二人の友情をリング上での憎悪へと変えていく。主演のマイケル・B・ジョーダンが初監督を務め、自らの過去と向き合う男の葛藤と宿命の対決を描いた、シリーズの集大成と呼ぶにふさわしい一作である。
■この映画で使われている会話表現とスラング
Let’s roll.
さあ、行こう/始めよう
Let’s roll. は「行こう」「出発しよう」「始めよう」という意味で使われる口語表現である。Let’s go. とほぼ同じ意味だが、Let’s roll. には、単なる移動の開始だけでなく、これから何か重要なことやエキサイティングなことを始めるという意気込みや覚悟のニュアンスが含まれることが多い。もともとは軍隊や警察が作戦を開始する際に使っていたスラングで、「出動だ」「作戦開始」といった意味合いが強い。そこから転じて、一般の会話でも広く使われるようになった。
この表現は、乗り物に乗って出発するイメージと結びつきやすい。roll は「転がる」という意味なので、車やバスなどの車輪が転がり出す様子を連想させるからだ。そのため、車で出かける際に Let’s roll! と言うと非常に自然に聞こえる。しかし、乗り物に乗らない場合でも、これから何かアクションを起こすぞ、という場面であれば問題なく使える。例えば、友人とパーティーに向かう時や、チームでプロジェクトを開始する時など、仲間を鼓舞して行動を促す際に最適なフレーズである。例文を見てみよう。
例文:
– The taxi is here. Let’s roll!
– 日本語訳:タクシーが来たよ。さあ、行こう!
– We’ve talked about the plan long enough. It’s time to act. Let’s roll.
– 日本語訳:計画についてはもう十分話し合った。行動する時だ。さあ、始めよう。
『クリード 過去の逆襲』では、映画の冒頭、2002年の回想シーンで若き日のデイミアンがアドニスを迎えに来て、これからゴールデングローブの会場へ向かうという場面で使われる。アドニスを車に乗せたデイミアンは、これから始まる夜への期待感を込めて C’mon. Let’s roll.(さあ、行くぜ)と言う。この一言には、二人の高揚感や若さゆえの無謀さ、そして兄弟のような強い絆が凝縮されている。まさに、彼らの運命の歯車が「転がり出す」瞬間を象徴するセリフと言えるだろう。
dap up
(拳や手のひらを合わせて)挨拶する
dap up は、特にアフリカン・アメリカンカルチャーにおいて、拳や手のひらをリズミカルに合わせる挨拶の仕方を指す動詞句である。単に握手する (shake hands) のとは異なり、仲間意識、敬意、連帯感を示すための、よりインフォーマルで文化的な意味合いの強いジェスチャーだ。挨拶の仕方は様々で、拳同士を軽くぶつける「フィストバンプ (fist bump)」から、手のひらを合わせたり、指を鳴らしたり、肩をぶつけたりと、複雑な組み合わせで行われることもある。
この挨拶の起源は、ベトナム戦争中のアフリカン・アメリカンの兵士たちにあると言われている。人種差別が根強い軍隊の中で、彼らが互いの尊厳とプライドを確認し、連帯感を示すために生み出したのが “the dap” だった。DAPは “Dignity and Pride”(尊厳と誇り)の頭文字を取ったものだという説もある。この挨拶は、言葉を交わさずとも「お前は一人じゃない」「俺たちは仲間だ」というメッセージを伝える重要なコミュニケーション手段だったのである。
現代では、兵士だけでなく、スポーツ選手やミュージシャン、そして一般の若者たちの間で、親しい友人や仲間に対する挨拶として広く定着している。
例文:
– The basketball players dapped each other up before the game started.
– 日本語訳:バスケットボール選手たちは試合が始まる前にお互いに挨拶を交わした。
– When I saw my best friend, we dapped up and started talking about our day.
– 日本語訳:親友に会った時、僕たちは拳を合わせて挨拶し、その日の出来事について話し始めた。
『クリード 過去の逆襲』では、若きデイミアンがゴールデングローブの会場に入っていく場面で、セキュリティガードと自然に挨拶を交わすシーンがある。脚本には Dame who daps up THE SECURITY GUARD… と書かれており、彼がそのボクシングコミュニティで顔が広く、リスペクトされている人物であることを一瞬で示している。この何気ないジェスチャーが、デイミアンが単なるストリートの若者ではなく、将来を嘱望された才能あるボクサーであったことを観客に印象付ける重要な役割を果たしている。
