■この映画のご紹介
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−『ブラック・ミラー』シーズン1の第2話として2011年にイギリスのChannel 4で放映されたエピソード「1500万メリット」は、チャーリー・ブルッカーが脚本を手がけたディストピア的未来を描いた作品だ。人々がひたすら自転車を漕いで「メリット」という通貨を稼ぎ、あらゆる消費行動にそのメリットを支払うという世界が舞台となっている。壁面スクリーンに囲まれた小さな部屋に住み、広告を強制的に視聴させられ、スキップするたびにペナルティを課される——そんな監視と消費の社会に生きる主人公ビングは、トイレで美しい歌声を持つアビに出会い、彼女のオーディション参加費として15億メリットを全て使い込む。タレント発掘番組「ホット・ショット」のステージに立ったアビが搾取されていく様子を目の当たりにしたビングは、怒りと絶望の末に再びそのステージへと挑む。現代のSNS、サブスクリプション経済、タレント番組への痛烈な風刺として、今もなお色褪せない傑作である。
■この映画で使われている会話表現とスラング
way to moodkill
雰囲気を壊してくれたな/興醒めにもほどがある
moodkill は「気分を台無しにすること」「雰囲気を壊すこと」を意味する口語的な複合語だ。mood(気分・雰囲気)と kill(殺す・台無しにする)を組み合わせた造語で、誰かが場の空気を壊したり、楽しい気分に水を差したりしたときに使う。動詞として moodkill someone(誰かの気分を壊す)という形でも使われるほか、名詞として That was a total moodkill.(それは完全に雰囲気を壊した)のようにも使える。 類似表現として buzz kill / buzzkill がある。これも「楽しい雰囲気を壊す人・もの」を指す非常によく使われるスラングだ。Don’t be such a buzzkill.(そんなに雰囲気を壊すなよ)や That news was a total buzzkill.(そのニュースは完全に気分を台無しにした)のように使う。また killjoy(興を冷ます人・楽しみを邪魔する人)も近い意味を持つ。 日常会話では、友人グループが楽しく盛り上がっているときに誰かが暗いニュースを持ち出したり、デート中に相手が急に仕事の話を始めたりした場面で使える。That was such a moodkill—we were having such a good time.(あれは本当に雰囲気を壊した、せっかく楽しかったのに)のように使う。 『1500万メリット』では、ダスティンが自転車を漕ぎながらポルノ映像を楽しんでいる最中、太った清掃員が通りかかりスクリーンに映り込んでしまう場面がある。ダスティンは彼女の反射を見て顔をしかめ、Way to moodkill, blubbernaut. Cheers for the reflection.(雰囲気を壊してくれたな、デブ艦。映り込んでくれてどうも)と毒づく。blubber(クジラの脂肪)と juggernaunt(巨大な力・重量のある乗り物)を合わせた blubbernaut という造語も、ダスティンの悪意ある侮辱をよく表している。この場面は、この社会における過体重の人々への構造的な差別と、それを当然視する空気感を鮮烈に描き出している。
pie ape
デブ野郎(侮辱語)
pie ape はこの作品の中で使われる造語的侮辱スラングだ。pie はイギリス英語のスラングで「太った人」や「食いしん坊」を指す蔑称として使われることがあり、ape(類人猿)と組み合わせることで、過体重の人を動物に例えた非常に侮辱的な表現となっている。これは実際の日常会話で使うべき言葉ではないが、作品内ではこうした言葉が平然と使われる社会の歪みを示す重要な装置となっている。 イギリス英語のスラングにおいて pie は単体でも多様に使われる。easy as pie(非常に簡単)、pie-eyed(目を丸くした・驚いた)、pie in the sky(非現実的な夢・絵に描いた餅)といった慣用句は日常的によく使われるが、人を pie と呼ぶのは完全に侮辱的な用法だ。また ape も単体でスラングとして使われ、go ape(激怒する・興奮する)、ape shit(完全に怒り狂う)のような表現がある。 この表現を通じて学べるのは、スラングには「教養のある使い方」と「差別的・攻撃的な使い方」の両方があるという点だ。ネイティブスピーカーの口語表現を学ぶ際には、どのような文脈で使われているかを慎重に見極める必要がある。 『1500万メリット』では、清掃員が立ち去ろうとした後もダスティンが Pie ape!(デブ野郎!)と怒鳴り続ける場面がある。清掃員は何も言わず黙って歩き去るだけだ。この非対称な権力関係——メリットを持ち自転車を漕ぐ者と、そうでない者の間の格差——がこの一語に凝縮されており、作品全体のテーマを鮮烈に体現している。
