■このドラマのご紹介
1982年から1993年まで11シーズンにわたって放送された、アメリカのテレビ史に輝く傑作シットコム(シチュエーション・コメディ)。舞台はボストンのとあるバー「チアーズ」。元メジャーリーガーのサム・マローンが経営するこの店には、インテリで皮肉屋のウェイトレス・ダイアン、天然ボケのコーチ、毒舌家のカーラ、そして郵便配達員のクリフや会計士のノームといった個性豊かな常連客たちが毎夜集う。彼らが繰り広げるウィットに富んだ会話、人間味あふれるやり取りは、観る者を温かい笑いと共感で包み込む。本作はエミー賞を28回受賞するなど批評家からも絶大な支持を受け、後の多くのコメディドラマに影響を与えた不朽の名作である。
■このドラマで使われている会話表現とスラング
What have you been up to?
最近どうしてた?/何してたの?
What have you been up to? は、しばらく会っていなかった相手に対して「最近どうしてた?」「元気にしていた?」と近況を尋ねる、非常にポピュラーな挨拶表現である。現在完了進行形 (have been doing) が使われていることから、過去のある時点から現在までの間に、継続的に何をしていたかを尋ねるニュアンスが含まれている。How have you been? が主に健康や全体的な調子を尋ねるのに対し、What have you been up to? はより具体的に、どんな活動や出来事があったかに関心を向ける表現だ。友人や同僚など、親しい間柄で使われるカジュアルな言い回しで、会話を始めるきっかけとして最適である。
似た表現に What are you up to? があるが、こちらは現在進行形なので「今、何してるの?」という意味になる。また、be up to something という形で使うと「何か(良からぬこと)を企んでいる」という少しネガティブな意味合いを持つこともある。例えば、The kids are too quiet. I think they’re up to something.(子供たちが静かすぎる。何か企んでいるに違いない)のように使われる。文脈によって意味が変わるため注意が必要だが、挨拶として使われる場合は、純粋に相手の近況を気遣うポジティブな表現である。
『チアーズ』の “Now Pitching: Sam Malone” のエピソードでは、バーの常連ノームが入店した際、オーナーのサムが What have you been up to, Norm? と声をかける。これは、バーというコミュニティにおける日常的なやり取りの典型例だ。「よぉノーム、最近どうだい?」といった気軽な挨拶であり、ここからノームの「大物気取りの」近況報告(コプリープラザでのランチやテディ・ケネディとの遭遇)へと会話が展開していく。この一言が、チアーズという場所が、客たちが互いの近況を語り合う居心地の良い空間であることを示している。日常会話で非常に応用が利き、Hey, long time no see! What have you been up to?(やあ、久しぶり!最近どうしてた?)のように、再会の挨拶に添えると自然な会話を始めることができるだろう。
Holy cats
なんてこった!/こりゃ驚いた!
Holy cats は、驚きや興奮、信じられないという感情を表す感嘆詞である。Holy cow! や Holy smoke!、Holy mackerel! など、”Holy” で始まる一連の表現(minced oath)の一つで、God(神)や Jesus(イエス)といった神聖な名前を直接口にすることを避けるための婉曲表現として生まれた。宗教的なタブーを回避しつつ、強い感情を表現するための言葉遊びであり、英語圏の文化に深く根ざしている。Holy cats はその中でも少し古風で、ユーモラスな響きを持つ表現だ。猫(cats)が特に神聖な意味を持つわけではなく、単に cow や smoke と同じように、音の響きの良さや意外性から使われるようになったと考えられている。
これらの表現は、驚いた時に日本語で「うわー!」「マジか!」「なんてこった!」と言うのと同じような感覚で使われる。例えば、You won the lottery? Holy cats!(宝くじに当たったって?そりゃすごい!)や、Holy cats, look at the size of that spider!(うわっ、見てみろよ、あのクモの大きさを!)のように、ポジティブな驚きにもネガティブな驚きにも使うことができる。非常に口語的でインフォーマルな表現なので、フォーマルな場での使用は避けるべきだが、友人や家族との会話では感情を豊かに表現するのに役立つ。
『チアーズ』では、バーに有名な亡命ホッケー選手ティボール・スヴェトコビッチが入ってきたのを見つけたノームが、Holy cats, isn’t that Tibor Svetkovic? と叫ぶ。このセリフは、普段は冴えない会計士であるノームが、有名人を見つけて子供のようにはしゃぐ様子を生き生きと描き出している。Holy cats という少し時代がかった感嘆詞を選ぶことで、ノームのキャラクターに親しみやすさや、どこか憎めない「おじさん」的な魅力が加わっている。この一言で、バーの平和な日常にちょっとした興奮がもたらされたことが伝わってくる名場面だ。
