■この映画のご紹介
第一次世界大戦末期のドイツ。皇帝への愛国心を煽る教師の言葉に感化され、17歳のパウル・ボイマーは友人たちと共に意気揚々と西部戦線へ志願する。しかし、彼らを待ち受けていたのは、英雄的な活躍とはほど遠い、泥と死と飢えにまみれた塹壕での絶望的な日々であった。理想と現実のあまりの乖離に打ちのめされながらも、仲間との絆だけを頼りに生き延びようとする若者たちの姿を通して、戦争の非人間性と無意味さを克明に描き出す。エーリヒ・マリア・レマルクの不朽の名作を、現代的な視点で再映像化したエドワード・ベルガー監督による戦争映画の傑作である。
■この映画で使われている会話表現とスラング
shitting bricks
ものすごく怖がる、ビビりまくる
shitting bricks は、極度の恐怖や緊張を感じている状態を表す非常に口語的で下品なスラングである。直訳すると「レンガの糞をする」となり、恐怖のあまり肛門が固く収縮し、まるでレンガのような硬い便しか出ないだろう、という非常に生々しい比喩から来ている。この表現が持つ強烈なイメージは、単に I’m scared.(怖い)や I’m nervous.(緊張している)と言うよりもはるかに強い恐怖感を伝えることができる。フォーマルな場では決して使われないが、友人同士の会話や映画、小説などでは、登場人物の極限の心理状態をリアルに描写するために効果的に用いられる。 日常会話で使う場面は限られるが、例えば絶叫マシンに乗る直前の友人が I’m shitting bricks right now!(今マジでビビりまくってるよ!)と言ったり、大事なプレゼンテーションの前に He was shitting bricks before his speech.(彼はスピーチの前、ガチガチに緊張していた)のように使ったりすることができる。非常にインフォーマルな表現であるため、使う相手や状況をよく選ぶ必要がある。
映画『西部戦線異状なし』では、ハインリヒという若い兵士が初めて塹壕から突撃する直前の心情を描写するナレーションで He staggers and runs, bowing low, shitting bricks.(彼はよろめきながら身をかがめて走る、恐怖に震えながら)と使われている。この一言で、いつ死ぬかわからない砲弾の嵐の中を走り抜ける兵士の、内臓がひっくり返るような生々しい恐怖が見事に表現されている。英雄的な兵士像とはかけ離れた、恐怖に支配された一人の人間としての姿を、この下品だが的確なスラングが浮き彫りにしている。
in hot water
面倒なことになる、まずい状況に陥る
in hot water は、「面倒なことになっている」「まずい状況に陥っている」「窮地に立たされている」という意味で広く使われるイディオムである。熱湯(hot water)の中にいる、というイメージから、不快で困難な状況に置かれている様子が伝わる。特に、規則を破ったり、権威ある人物(上司、親、教師など)を怒らせたりした結果、罰や叱責を受けるような状況を指すことが多い。 この表現の起源は中世にまで遡ると言われており、当時は罪人を熱湯に入れて処罰することがあったという説もある。そこから転じて、困難な状況を指すようになったと考えられている。 日常会話では非常によく使われる。例えば、He’s in hot water with his wife for forgetting their anniversary.(彼は結婚記念日を忘れて、奥さんとまずいことになっている)や I’m in hot water at work because I missed a critical deadline.(重要な締め切りを逃してしまったので、職場で窮地に立たされている)のように使うことができる。get into hot water という形で「面倒なことになる」という動作を表すことも多い。If you lie to the manager, you’ll get into hot water.(部長に嘘をついたら、面倒なことになるよ)。
『西部戦線異状なし』では、主人公のパウルが友人たちと軍への志願を考えている場面で登場する。パウルはまだ親の許可を得ておらず、志願書への署名を偽造しようかと悩んでいる。それを見た友人のベームが You’re gonna be in hot water. He’ll give you a thrashing.(面倒なことになるぞ。親父さんにぶん殴られる)と警告する。ここでは、親の署名を偽造するという不正行為が発覚すれば、父親から厳しい罰を受けることになる、という具体的な「面倒」を指している。若者たちの無鉄砲な行動と、それに伴う現実的なリスクを的確に表したセリフである。
