■この映画のご紹介
Table of Contents
−- ■この映画のご紹介
- ■この映画で使われている会話表現とスラング
- Traveling ain't for everyone.
- Don't be quick to judge.
- Keep to herself
- People talk.
- snappy
- Dumb as a stump
- Nature and nurture
- peculiar
- I dare say
- neatly tucked away
- running away from something
- We hardly ever reveal our true motivations.
- You look like you've seen a ghost.
- Know your place.
- in the need of help
- I don't have enough information to conclude what is or what is not strange for now.
- This isn't real.
- Fuck me.
- going off course
- What are the odds?
- aye, aye, Captain
- stowaway
1899年、ロンドンを出発しニューヨークへ向かう移民船ケルベロス号。船内には異なる国籍・言語・背景を持つ乗客たちが乗り合わせている。4ヶ月前に消息を絶った同じ航路の姉妹船プロメテウス号の座標を示す謎の電信を受信した船長は、針路を変えてその座標へと向かう。スコットランド人の神経科医マウラ・フランクリンを中心に、謎の失踪船の探索が始まる中、船内では様々な秘密と過去が交錯していく。Netflixオリジナルシリーズとして2022年に配信され、ダーク(DARK)を手掛けたバラン・ボ・オダーとヤンティエ・フリーゼが創作した、多言語・多文化が入り交じるミステリースリラーである。
■この映画で使われている会話表現とスラング
Traveling ain’t for everyone.
旅は誰にでも向いているわけじゃない
ain’t はam not / is not / are not / has not / have not の口語的短縮形で、主に非標準的・口語的な英語として使われる。文法的には正式な書き言葉では避けるべきとされるが、日常会話やスラング、歌詞、映画のセリフでは非常によく耳にする表現だ。特にアメリカ南部の方言やイギリスの労働者階級の話し言葉に多く見られる。
ain’t を使うことで、話し手の教育水準や社会的背景、くだけた人柄を表すキャラクター描写の道具としても機能する。例えば It ain’t easy.(楽じゃないよ)や That ain’t right.(それはおかしい)、I ain’t going anywhere.(どこにも行かないよ)のように使われる。また、ain’t nobody got time for that.(そんな暇はない)のような有名なインターネットミームにも登場する表現だ。
Traveling ain’t for everyone. は「旅は誰にでも向いているわけではない」という意味で、ここでは「船旅に向かない人もいる」というニュアンスで使われている。『1899』では、客室に閉じこもって一度も出てこない隣室の客について、ポーターがマウラに語りかける場面でこの表現が登場する。
ポーターは食事のトレイを隣の部屋の前に置きながら、This one doesn’t seem to like the waves. Hasn’t come out since we left Southampton 3 days ago. My mother always used to say: Traveling ain’t for everyone.(この方は波が苦手なようですね。サウサンプトンを出てから3日間、一度も出てこられていません。母がよく言っていたんですよ、旅は誰にでも向いているわけじゃないって)と言う。
この一言には、単純な事実の観察を超えて、船酔いや閉所に苦しむ乗客への軽い見下しのニュアンスも含まれている。船旅が一般的でなかった時代、特に長距離航海は体力的にも精神的にも過酷なものだった。ain’t という口語的な表現を使うことで、ポーターの労働者階級的な背景と気さくな人柄が自然に伝わってくる。
日常会話では、Not everyone is cut out for this job.(この仕事は誰にでも向いているわけじゃない)や This kind of lifestyle ain’t for everyone.(こういうライフスタイルは誰にでも合うわけじゃない)のように応用できる。
Don’t be quick to judge.
すぐに判断するな/早まって決めつけるな
be quick to do something は「すぐに~する」「素早く~する」という意味の表現で、肯定的な意味でも否定的な意味でも使われる。Don’t be quick to judge. は「すぐに判断するな」「早まって人を決めつけるな」という戒めの表現だ。judge という動詞には「判断する」という中立的な意味の他に、「人を批判する・決めつける」という否定的なニュアンスもある。
Don’t judge a book by its cover.(見た目で判断するな)というよく知られたことわざと同じ精神を持つ表現で、第一印象や表面的な情報だけで相手を評価することへの戒めだ。類似した表現として、Don’t jump to conclusions.(早まった結論を出すな)、Give it time before you judge.(判断する前に時間をかけなさい)なども使われる。
『1899』では、ポーターが隣室の乗客について軽率なコメントをした後、マウラが My father always used to say: Don’t be quick to judge. Things might turn out to be the exact opposite of what you thought.(父はよくこう言っていたんです。すぐに判断するな。物事は考えていたこととまったく逆の結果になるかもしれないと)と返す場面がある。
この台詞はマウラのキャラクターを端的に表している。彼女は科学者・医師として物事を証拠なしに決めつけることを嫌い、常に慎重かつ開かれた視点を持とうとする人物だ。また、この言葉は物語全体のテーマとも深く結びついている。乗客一人ひとりが表の顔と隠れた事情を持ち、見かけ通りではないことが徐々に明らかになっていく物語において、この表現は重要な伏線となっている。
日常会話では、Don’t be so quick to judge him; you don’t know what he’s been through.(そんなに早く判断するな、彼が何を経験してきたか分からないだろう)のように使える。人間関係や職場でのアドバイスとしても使いやすい表現だ。
Keep to herself
人付き合いを避ける/引きこもりがちな
keep to oneself は「自分の世界に閉じこもる」「人付き合いを避ける」「一人でいることを好む」という意味の慣用表現だ。否定的な意味だけでなく、単に「内向的・プライベートを大切にする」という中立的なニュアンスでも使われる。She keeps to herself at work.(彼女は職場では人付き合いをあまりしない)や He’s the kind of person who keeps to himself.(彼は一人でいることを好むタイプだ)のように使われる。
また keep something to oneself という形では「秘密にしておく」という意味になる。Please keep this to yourself.(このことは内緒にしておいてください)のように使われ、こちらも日常的によく耳にする表現だ。
『1899』では、ヴァージニアがマウラに対して、A woman of your age, unmarried, traveling by herself– keeping to herself– People find it peculiar.(あなたの年齢で、未婚で、一人旅をして、人付き合いも避けていたら、人は奇妙に思うわよ)と言う場面がある。
19世紀末という時代背景の中で、未婚の女性が一人で船旅をし、しかも他の乗客との交流を避けているという状況は、当時の社会規範からすれば非常に「奇妙」に映った。ヴァージニアはマウラを助けるふりをしながら、実は彼女の孤立した行動を批判的に観察している。この表現はマウラの内向的でミステリアスな性格を際立たせる重要な一言だ。
現代でも、She tends to keep to herself at parties.(彼女はパーティーでは人と交わらない傾向がある)のように自然に使える表現だ。
People talk.
人は噂をする/陰で何を言われるか分からない
People talk. は「人は噂をするものだ」「うわさが広まる」という意味の短い表現だ。これ単体で警告として機能し、「あなたの行動は他人に見られていて、噂になるかもしれない」というニュアンスを持つ。Rumors spread.(噂は広まる)や Word gets around.(話は伝わるものだ)と同じ意味合いで使われる。
特に小さなコミュニティや閉鎖的な社会(この場合は船内という限られた空間)では、他人の行動が話題になりやすく、People talk. はその現実を簡潔に表している。Be careful what you do; people talk.(行動には気をつけて。人はすぐ噂をするから)や In a small town like this, people talk.(こんな小さな町では、人は何でも噂にする)のように使う。
『1899』では、ヴァージニアがマウラに対して And people talk. And before you even set foot on American soil, the good women of New York will have already heard everything about you.(それに人は噂をする。あなたがアメリカの土を踏む前に、ニューヨークの良家の女性たちはあなたのことをすでに全部知っているでしょう)と言う場面がある。
この台詞は、19世紀末の上流社会における女性の行動規範の厳しさを如実に物語っている。女性が社会の目から逃れることは難しく、評判はその後の人生に大きな影響を与えた。ヴァージニア自身も多くの秘密を抱えており、彼女の「忠告」には複雑な意図が隠されている可能性がある。
snappy
ぶっきらぼうな/気が短い/刺々しい
snappy には複数の意味がある。まず「ぶっきらぼうな」「刺々しい」「気が短い」という意味で、Don’t be so snappy with me.(そんなにぴりぴりしないで)のように使われる。また「スタイリッシュな」「洒落た」という意味もあり、a snappy dresser(おしゃれな人)のように使われることもある。さらに Make it snappy!(さっさとやれ!)という表現では「素早くやれ」という命令のニュアンスになる。
文脈によって意味が変わる面白い単語だ。That’s a snappy comeback.(それは鋭い切り返しだ)のように、機知に富んだ返しを褒める場合にも使われる。
『1899』では、ヴァージニアがマウラの評判について That’s what the rumors also say. That you’re a little snappy.(噂にはそれも含まれているわ。あなたは少し刺々しいって)と言う場面がある。マウラが自分の職業についての質問をはぐらかした後のこの一言は、ユーモアと皮肉が絶妙にブレンドされている。ヴァージニアというキャラクターは、こうした機知に富んだ観察眼で相手を煙に巻く人物として描かれており、snappy という単語選びもそのキャラクターらしさを演出している。
日常会話では、Sorry I was snappy earlier; I was just stressed.(さっきぴりぴりしてごめん、ちょっとストレスがたまっていて)のように使える表現だ。
Dumb as a stump
丸太のように頭が悪い/とんでもなく馬鹿な
dumb as a stump は「丸太(切り株)のように頭が悪い」という意味のアメリカ英語のイディオムだ。stump(切り株)は何も考えない、何も感じない存在として使われており、思考能力がまったくないことを比喩的に表現している。dumb はアメリカ英語では「頭が悪い」という意味のスラングとして広く使われる(イギリス英語では「口がきけない」という意味が強い)。
類似した表現として、dumb as a rock(石のように頭が悪い)、thick as two short planks(イギリス英語で「とんでもなく頭が悪い」)、not the sharpest tool in the shed(頭の切れない人)などがある。いずれも侮辱的な表現なので使う際には注意が必要だ。
『1899』では、ヴァージニアが食堂の隅に座っている太った英国人医師について、Dr. Reginald Murray. Dumb as a stump. His father was a doctor. And so was his father… and so on and so on.(レジナルド・マレー博士よ。丸太みたいに頭が悪い。父親が医者で、その父親も医者で、そういうことが続いてきたのよ)とマウラに語る場面がある。
この台詞は、19世紀末における職業の世襲と能力主義の矛盾を鋭く批判している。女性が医学を学んでも実践できない一方で、家柄だけで地位を得た無能な男性医師が堂々と座っているという不条理さを、ヴァージニアは dumb as a stump という強烈な表現で切り捨てる。
Nature and nurture
生まれと育ち/先天性と後天性
nature and nurture は「先天性と後天性」「生まれと育ち」を意味する有名な対概念だ。心理学・教育学・哲学において、人間の特性や行動がどの程度遺伝(nature)によるものか、環境・経験(nurture)によるものかを論じる際に用いられる。19世紀に科学者フランシス・ゴルトンが広めた概念で、今日でも science, sociology, education などの分野で頻繁に使われる。
The debate over nature and nurture continues to this day.(先天性か後天性かという議論は今日も続いている)のように学術的な文脈で使われるが、日常会話でも Is he naturally talented, or was it his upbringing? Nature or nurture?(彼は生まれつき才能があるのか、それとも育ち方のせいか?先天性か後天性か?)のように使われる。
『1899』では、ヴァージニアが無能な医師について Nature and nurture. That one was on the beneficiary end of both. Born a boy and spoiled silly.(生まれも育ちも恵まれている。男に生まれて、甘やかされて育ったのよ)と言う場面がある。ここでは学術用語を使いながら、男性特権と家父長制度への批判を鋭く展開しており、ヴァージニアの知性と皮肉が凝縮された台詞となっている。
peculiar
奇妙な/変わった/独特な
peculiar は「奇妙な」「変わった」「普通とは違う」という意味の形容詞だ。strange や odd とほぼ同義だが、peculiar はやや上品で文学的なニュアンスがあり、19世紀から20世紀初頭のイギリス英語では特によく使われた表現だ。また「特定の~に固有の・独特の」という意味もあり、a custom peculiar to this region(この地域に固有の慣習)のように使われることもある。
日常会話では、That’s a peculiar smell.(変な匂いがする)や He has some peculiar habits.(彼はちょっと変わった習慣がある)のように使われる。You’re quite peculiar. のように人に対して使うと「あなたは変わっている」という意味になる。褒め言葉としても批判としても使えるため、文脈の読み取りが重要だ。
『1899』では、船尾デッキでマウラと話した船長のアイクが You’re quite peculiar. You know that?(あなたはずいぶん変わっていますね。ご存知ですか?)と言う場面がある。マウラが社会の常識や階級の壁を意に介さず行動する様子を見て、アイクが率直に評した一言だ。批判ではなく、むしろ興味や敬意を含んだ観察として使われており、二人の関係性の始まりを示す重要な台詞となっている。
I dare say
おそらく~だと思う/たぶんそうだろう
I dare say は「おそらく」「たぶん~だと思う」「~と言っても差し支えないだろう」という意味のイギリス英語の慣用表現だ。現代では少し古風な表現とされるが、特にイギリスの上流・中流階級の話し言葉として今でも使われる。I dare say you’re right.(たぶんあなたが正しいと思います)や I dare say it will rain tomorrow.(明日は雨になりそうですね)のように使われる。
確信の度合いは I think よりもやや低く、「おそらくそうだろうが、断定はしない」というニュアンスだ。また I dare say には「あえて言えば」という含みもあり、やや遠慮がちに意見を述べる際にも使われる。
『1899』では、ヴァージニアが乗客たちの秘密について語った後、And if I’m not mistaken, that’s also the case for you my dear. I dare say that no one wants them to be discovered.(もし私が間違っていなければ、あなたも同じよ。誰も自分の秘密を暴かれたくはないでしょう)と言う場面がある。I dare say という表現が加わることで、ヴァージニアの観察が押しつけがましくなく、上品な確信として伝わる。19世紀末の上流社会の言葉遣いを再現した台詞として見事だ。
neatly tucked away
こっそりしまい込まれた/きちんと隠された
tuck away は「しまい込む」「隠す」「こっそりと格納する」という意味の句動詞だ。neatly(きちんと・小ぎれいに)と組み合わせることで、「ていねいに・巧みにしまい込まれた」というニュアンスになる。物理的なものだけでなく、感情・秘密・記憶などを「心の奥にしまい込む」という比喩的な意味でもよく使われる。
She tucked away her feelings and carried on.(彼女は感情を押し込めて続けた)や The cottage is tucked away in the hills.(その小屋は丘の奥にひっそりとある)のように使われる。tuck in(食べ物にかぶりつく)、tuck into bed(ベッドに寝かしつける)など、tuck を使ったさまざまな表現がある。
『1899』では、ヴァージニアが乗客たちについて Our secrets neatly tucked away in our luggage.(私たちの秘密は荷物の中にきちんとしまい込まれている)と詩的に表現する場面がある。船旅というシチュエーションと「荷物の中の秘密」という比喩が絶妙にかみ合っており、物語のテーマである「人は誰もが秘密を持っている」というメッセージを端的に表した台詞だ。
running away from something
何かから逃げている/過去から逃げる
run away from something は「何かから逃げる」という文字通りの意味の他に、「過去・問題・責任から逃げる」という比喩的な意味でよく使われる。She’s just running away from her problems.(彼女はただ問題から逃げているだけだ)や People move to new cities thinking they’re running away from themselves.(自分自身から逃げられると思って新しい街に引っ越す人がいる)のように使われる。
running away from something は否定的なニュアンスが強く、問題に向き合わずに逃避しているという批判的な含みを持つ。一方で、新しい生活を求めて環境を変えることを指す場合は running toward something(何かに向かって走っている)という対比で使われることもある。
『1899』では、ヴァージニアが乗客たちについて They’re all running away from something. Why else would they want to go somewhere different?(みんな何かから逃げているのよ。それ以外に、どうして別の場所に行きたいと思うの?)と分析する場面がある。この観察は物語の核心をついており、実際に乗客一人ひとりが様々な過去や秘密を抱えてケルベロス号に乗り込んでいることが物語を通じて明らかになっていく。
We hardly ever reveal our true motivations.
私たちは本当の動機をほとんど明かさない
reveal は「明かす」「露わにする」「暴露する」という意味の動詞だ。true motivations(本当の動機)と組み合わせることで、「人は本音や本当の目的を他者に見せない」という深い人間観察を表現している。motivation は「動機」「やる気」という意味で、what’s your motivation?(あなたの動機は何ですか?)のように日常的にも使われる。
We hardly ever reveal our true motivations. は心理学的・哲学的な観察として使える表現で、People rarely say what they really mean.(人は本当に思っていることをめったに言わない)や We often hide our real reasons behind polite excuses.(本当の理由を礼儀正しい言い訳で隠すことが多い)と同様のニュアンスだ。
『1899』では、ヴァージニアがマウラに We hardly ever reveal our true motivations.(私たちは本当の動機をほとんど明かさない)と言う場面がある。この台詞はシリーズ全体を通じた重要なテーマを示しており、全乗客が表向きの理由とは異なる本当の目的を持っていることが徐々に明らかになっていく。ヴァージニア自身も例外ではなく、彼女の行動の裏にある動機も物語の中で重要な意味を持ってくる。
You look like you’ve seen a ghost.
まるで幽霊でも見たような顔をしている
You look like you’ve seen a ghost. は「まるで幽霊でも見てきたような顔をしている」という意味の慣用表現で、誰かが極度に驚いた・恐怖を感じた・顔が真っ青になっている様子を表すときに使う。直接的に「驚いているね」「怖い思いをしたね」と言う代わりに、比喩的に幽霊を引き合いに出した面白い表現だ。
You look pale. Is everything all right? You look like you’ve seen a ghost.(顔が青ざめているよ。大丈夫?幽霊でも見てきたの?)のように使われる。また比喩的に、He looked like he’d seen a ghost when he heard the news.(そのニュースを聞いたとき、彼は幽霊でも見たような顔をした)のように過去形でも使える。
『1899』では、船尾デッキで息を切らして飛び出してきたマウラに対して、アイク船長が You look like you’ve seen a ghost.(まるで幽霊でも見たような顔をしている)と声をかける場面がある。マウラが三等客室の暗い廊下で不思議な金属音を聞き、パニックに陥った直後の場面だ。この一言は単なる観察にとどまらず、物語のミステリアスな雰囲気を高める伏線としても機能している。実際に彼女が直面しているのは、幽霊的な何かである可能性が示唆されている。
Know your place.
身の程をわきまえろ/分を知れ
Know your place. は「自分の立場をわきまえろ」「分を知れ」という意味の命令表現だ。歴史的には階級社会において、下の身分の者に対して上位の者が使った抑圧的な表現で、現代では差別的・支配的なニュアンスを持つと受け取られることが多い。
この表現は批判的な文脈でも使われる。You shouldn’t have to “know your place”; everyone deserves respect.(「分をわきまえろ」なんて言われるべきではない。誰もが尊重される権利がある)のように、この考え方そのものを否定する文脈でも登場する。社会正義や平等を論じる際に引用されることも多い。
『1899』では、三等客室の乗客クレスターが一等客室の食堂に助けを求めに来た際、乗組員のフランツが彼を階段から突き落とした後、Know your place creep.(身の程をわきまえろ、気持ち悪い奴め)と言い放つ場面がある。creep(気持ち悪い人・不気味な奴)という侮辱的な呼び方と組み合わせることで、乗組員の差別的な態度が鮮明に描かれている。クレスターの顔が変形していることも偏見の対象となっており、19世紀末の社会における階級差別・外見差別の現実を示す重要なシーンだ。
in the need of help
助けを必要としている
in need of ~ は「~を必要としている」という意味のフォーマルな表現だ。in the need of help は「助けを必要としている状態にある」という意味で、They are in need of urgent assistance.(彼らは緊急の援助を必要としている)のように使われる。in need(困窮している)だけでも使われ、people in need(困っている人々)、help those in need(困っている人を助ける)のように人道支援・慈善活動の文脈でよく登場する。
カジュアルな会話では、I need help.(助けてください)の方が一般的だが、フォーマルな文書やスピーチでは in need of help という表現が使われる。
『1899』では、ヴァージニアがアイク船長に対して They didn’t identify themselves as the Prometheus? Nor did they say they were in the need of help? Now that’s a little strange, wouldn’t you say?(プロメテウスだとも名乗らず、助けを求めるとも言っていないんですか?それは少し奇妙ではないかしら)と鋭く質問する場面がある。ヴァージニアの鋭い観察眼と論理的思考を示す台詞であり、謎の信号の不可解さを乗客の中で最初に指摘した人物として描かれている。
I don’t have enough information to conclude what is or what is not strange for now.
今のところ何が奇妙で何がそうでないかを結論づけるだけの情報がない
conclude は「結論を出す」「断定する」という意味の動詞だ。I don’t have enough information to conclude ~ は「~を結論づけるだけの情報が不足している」という意味の丁重な言い方で、断定を避けながら不確かさを正直に伝える表現だ。科学的・論理的な思考を持つ人物がよく使う表現で、We can’t conclude anything without more data.(データがなければ何も結論づけられない)のように使われる。
この表現は知的な謙虚さを示す表現として、職場や学術的な場面でも使える。I can’t conclude that he’s guilty based on this evidence alone.(この証拠だけでは彼が有罪だと結論づけることはできない)のように法律・科学・ジャーナリズムの文脈でもよく登場する。
『1899』では、アイク船長がヴァージニアの鋭い質問に対して I don’t have enough information to conclude what is or what is not strange for now.(今のところ何が奇妙かそうでないかを結論づけるだけの情報がありません)と答える場面がある。謎の信号について確信が持てない状況の中で、憶測を避けながら慎重に状況を判断しようとする船長の姿勢が表れている。
This isn’t real.
これは現実じゃない/信じられない
This isn’t real. は「これは現実ではない」という意味で、恐怖・驚き・混乱のあまり現実を受け入れられないときに使う表現だ。This can’t be happening.(こんなことが起きているはずがない)や I must be dreaming.(夢に違いない)と同様に、現実否定の心理状態を表す。
ホラー映画やスリラーでよく登場する表現で、予期しない恐ろしい状況に直面したときの本能的な反応を言語化したものだ。また比喩的に、믿을 수 없는 幸運に恵まれたときにも This isn’t real! I can’t believe this is happening!(これは現実じゃない!信じられない!)のように使われることがある。
『1899』では、石炭倉庫の中で暗闇に何かの気配を感じたオレクが、パニックに陥りながら This isn’t real. This isn’t real.(これは現実じゃない。現実じゃない)とつぶやく場面がある。一人で暗い石炭倉庫に入り、謎の物音を聞いたオレクが恐怖のあまり自分に言い聞かせるように繰り返すこの台詞は、彼の内面的な不安と孤独を表している。シリーズ全体における「現実とは何か」というテーマとも深く関連する印象的な一言だ。
Fuck me.
冗談だろ/信じられない(驚き・失望の表現)
Fuck me. はイギリス英語で特によく使われる俗語的な感嘆表現で、強い驚き・失望・呆れを表す。Wow.、You’re kidding me.、I can’t believe it. などと同様の感情的反応を、より粗野な表現で伝えるものだ。文脈によって「信じられない」「冗談だろ」「まったく最悪だ」など様々なニュアンスになる。
イギリスのくだけた会話では感嘆詞的に広く使われるが、フォーマルな場や目上の人への使用は当然避けるべき表現だ。Fuck me, that was close!(くそ、ギリギリだった!)や Fuck me, it’s expensive.(うわ、高い)のように使われる。
『1899』では、ダシエルが石炭シュートに石炭がなくなっているのを確認して Fuck me. Not again.(冗談だろ、また詰まったのか)と言う場面がある。また別の場面では、フランツが黒人のジェロームを見て Fuck me. They sell our ships and this is what they staff them with?(信じられない。船を売り払って、こんな奴を乗組員にするのか)と人種差別的な発言をする場面でも使われる。いずれも粗野な人物の性格描写に使われており、表現の品格を示すキャラクタリゼーションとして機能している。
going off course
針路を外れる/道を踏み外す
go off course は「針路を外れる」「コースから逸れる」という意味の表現で、船・飛行機・車などの文字通りの意味の他に、「人生の方向性を見失う」「計画から外れる」という比喩的な意味でも広く使われる。
The project went off course after the budget was cut.(予算削減後、プロジェクトは軌道を外れた)や My life went off course after that decision.(その決断の後、私の人生は方向を見失った)のように使われる。go off track も同様の意味でよく使われる表現だ。
『1899』では、スペイン人のラモンが船が針路を変えていることに気づき、The goddam ship is turning.(くそ、船が曲がっている)と言う場面があり、その後の議論の中で going off course という概念が物語の重要な転換点となる。また乗客会議のシーンでは、多くの乗客が計画通りにニューヨークへ向かわないことへの不満と恐れを表明する。船が針路を変えることは、物語全体における「予定からの逸脱」「コントロールの喪失」というテーマを象徴している。
What are the odds?
その確率はどのくらい?/まさかそんな偶然が!
What are the odds? は「その確率はどのくらい?」という文字通りの意味と、「まさかそんな偶然が!(信じられないような偶然に驚く)」という慣用的な意味の両方で使われる。後者の意味では、あまりにも偶然すぎる出来事に対する驚きや皮肉を表す感嘆表現として使われる。
We ran into each other in Tokyo of all places. What are the odds?(東京でばったり会うなんて。まさかそんな偶然が!)のように使われる。また賭けや確率の文脈では、What are the odds of winning?(勝つ確率はどのくらい?)のように文字通りの意味でも使われる。
『1899』では、フランス人新婚夫婦のクレマンスがプロメテウス号の失踪について Two ships of the same shipline sinking in a row? Am I right?(同じ航路会社の船が続けて沈むなんて、その確率はどのくらいかしら?)と言う場面がある。彼女はこの言葉で自分たちの乗る船の安全性を間接的に心配しているが、夫のリュシアンは彼女の言葉をまったく聞いていない。夫婦間のコミュニケーション不全を示すコミカルな場面だが、実際には深刻な不安を抱えたクレマンスの心理が滲み出ている。
aye, aye, Captain
了解です、船長/承知しました
Aye, aye, Captain(またはAye, aye, sir)は航海・海軍の伝統的な表現で、「命令を了解し、ただちに実行します」という意味だ。通常のyes よりも強い確認の意味を持ち、命令を受け取ったことと、それを実行する意志の両方を同時に示す。aye はyes の古語・方言的な形で、スコットランド語・アイルランド語・航海用語として今も残っている。
現代でも、特に海に関連したコンテキストや、軍・組織の命令系統を描いた映画・ドラマで頻繁に使われる。また日常会話で軽いユーモアとして、Aye, aye, Captain!(了解です、指揮官!)と使われることもある。
『1899』では、アイク船長がプロメテウス号の座標へ針路を変更する命令を下した後、ファーストメイトのセバスチャンが Aye, aye, Captain.(了解です、船長)と答える場面がある。続けてセバスチャンが他の乗組員に Reduce speed to 9 knots. Prepare for turning maneuver. 37 degrees. North, North-West.(速度を9ノットに落とせ。転舵の準備をしろ。37度。北北西)と指示を出す場面は、船上の規律と指揮系統を生き生きと描き出している。
stowaway
密航者/無断乗船者
stowaway は「密航者」「無断乗船者」を指す名詞で、乗り物(船・飛行機・列車など)に無断で隠れて乗り込む人を指す。動詞形は stow away で、He stowed away on a cargo ship.(彼は貨物船に密かに乗り込んだ)のように使われる。stow は「しまい込む」「格納する」という意味の動詞で、そこから来ている。
stowaway は歴史的な移民・難民・逃亡者の文脈でよく登場するテーマで、19世紀から20世紀にかけて、新天地を求めてヨーロッパからアメリカへ向かう移民の中には密航者も多かった。現代でも国際的な人身売買・難民問題の文脈で使われる深刻な現実を持つ言葉だ。
『1899』では、石炭倉庫に隠れていたジェロームが stowaway(密航者)として描かれている。彼は後に乗組員の制服を盗んで乗組員に偽装するが、フランツのような人物には人種差別的な扱いを受ける。ジェロームがなぜ密航しているのか、どこへ向かおうとしているのかは物語の謎の一つとなっており、彼のキャラクターに多くの疑問符が付けられたまま第1話が終わる。

こんにちは、ゆぶろぐです。
映画の英語は、学習教材と違って、学習者向けに手加減された英語ではありません。生の英語が飛び交っています。一見、難しいように聞こえますが、次第にストーリーの展開に心を奪われながら、英語とストーリーの両方の魔力に引きつけられていくのです。▶映画は、普段日常生活では接することのない、様々な場面に誘ってくれます。その中で交わされている英語には、学校で学ぶ英語と少しばかり違った、口語表現やスラングがあふれています。▶このサイトでは、その独特の口語表現やスラングを主に映画から探してきて、紹介しています。中には、危険なフレーズや下品な言い回しもあえて取り上げてみました。それらは、実際に使うとアブナイものも含まれていますから、それは「知っていく」程度にとどめておいてください。
本名、吉成雄一郎(よしなりゆういちろう)。株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。専門は英語教授法。英語学習や英語教育に関する論文、著書、記事多数。
