■この映画のご紹介
1972年9月5日、西ドイツのミュンヘンで開催された第20回夏季オリンピック。「平和の祭典」と呼ばれるはずだったこの大会は、パレスチナのテロ組織「黒い九月」によるイスラエル選手団襲撃事件によって、悪夢へと姿を変えた。本作は、この歴史的なテロ事件を、アメリカのテレビ局ABCスポーツのクルーたちの視点から描いた物語である。
若く野心的なプロデューサー、ジェフ・メイソン。経験豊富で道徳的な上司、マーヴィン・ベイダー。そして、テレビ放送のあり方を変えた伝説的なディレクター、ルーン・アーレッジ。彼らは、前代未聞の人質事件を前に、スポーツ中継の枠を超えた報道を迫られる。限られた情報、壊れた空調、官僚的な障害、そして絶え間なく続くプレッシャー。コントロールルームという閉鎖された空間で、彼らは何を伝え、何を伝えるべきではないのかという究極の選択に直面する。歴史がリアルタイムで動く中、テレビというメディアの力と責任が問われた、緊迫の24時間を描いた傑作である。
■この映画で使われている会話表現とスラング
keep climbing the ladder
出世街道を突き進む
keep climbing the ladder は、組織や社会の中で「出世し続ける」「キャリアの階段を登り続ける」という意味を持つ、非常に一般的な比喩表現である。ここでの ladder は「はしご」を意味し、キャリアパスを一段一段登っていく様子を視覚的に表している。特に、野心的で成功意欲の強い人物の行動を描写する際によく使われる。climb the corporate ladder(会社の出世階段を登る)という形で使われることも非常に多い。この表現は、昇進が明確な階層構造(ヒエラルキー)を持つ大企業や官僚組織におけるキャリアアップのイメージと強く結びついている。単に「昇進する」という意味の get promoted よりも、継続的でたゆまぬ努力や野心といったニュアンスが含まれるのが特徴だ。
日常会話では、ビジネスやキャリアに関する話題で頻繁に登場する。例えば、She’s working really hard because she’s determined to keep climbing the ladder.(彼女は出世街道を突き進むと固く決心しているので、本当に一生懸命働いている)のように、個人のキャリアへの意欲を説明する際に使える。また、He changed jobs to find a company with a taller ladder to climb.(彼は登るべきより高いはしごがある会社を見つけるために転職した)のように、組織の成長機会について語る際にも応用できる。この表現は、ポジティブな意味で「野心的である」と評価する場合にも、ネガティブな意味で「出世欲が強すぎる」と皮肉る場合にも使える、文脈によってニュアンスが変わる便利なフレーズである。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、主人公の一人である若手プロデューサー、ジェフ・メイソンの人物紹介で、…a junior producer at ABC Sports, determined to keep climbing the ladder.(ABCスポーツの若手プロデューサーで、出世街道を突き進むことを固く決意している)と描写されている。この一文だけで、ジェフが単なるテレビマンではなく、強い野心と上昇志向を持った人物であることが観客に伝わる。物語が進むにつれて、彼がこの歴史的な大事件を、自らのキャリアを飛躍させるチャンスと捉えている側面が明らかになっていく。この表現は、彼の行動原理を理解する上で非常に重要なキーワードとなっており、彼の時に大胆で、時に危うい決断の背景にある野心を的確に示している。
screw this up
これを台無しにする/しくじる
screw up は、「しくじる」「台無しにする」「めちゃくちゃにする」という意味を持つ、非常にポピュラーなスラングである。何かを失敗したり、計画をダメにしてしまったりしたときに使われる。screw はもともと「ねじ」や「ねじで留める」という意味の単語だが、スラングとしては性的な意味合いを持つこともあり、そこから転じて「めちゃくちゃにする」という意味で使われるようになった。mess up とほぼ同じ意味で使われるが、screw up の方が少しだけ強く、より口語的でくだけた響きを持つ。フォーマルな場での使用は避けるべきだが、友人同士の会話や映画、ドラマでは頻繁に耳にする表現だ。
日常会話での使用例は非常に多い。例えば、I really screwed up the exam.(試験で本当にしくじった)や Don’t screw this up; it’s our last chance.(これを台無しにするなよ、最後のチャンスなんだから)のように、自分や他人の失敗について語る際に使う。また、物事がうまくいかない状況を指して My computer is all screwed up.(僕のコンピューターは完全にめちゃくちゃだ)のように言うこともできる。何かを任された際に「失敗しないように頑張る」という意気込みを伝えるために I’ll try not to screw it up.(しくじらないように頑張ります)と使うこともできる。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、上司のマーヴィン・ベイダーが、若手のジェフに重要な仕事を任せることへの不安を吐露する場面でこの表現が使われる。ベイダーは If you screw this up, I’m the one in trouble with Roone.(もし君がこれをしくじったら、ルーン(最高責任者)に怒られるのは私なんだ)とジェフに釘を刺す。このセリフから、テレビ業界の厳しい上下関係と、一つの失敗が大きな問題に発展しかねないプレッシャーの大きさが伝わってくる。また、ベイダーがジェフの能力を認めつつも、その若さと野心ゆえの危うさを心配している、という複雑な心境も表現されている。この screw this up という直接的で強い言葉が、生放送という失敗の許されない現場の緊張感をリアルに描き出している。
at a loss
途方に暮れて/どうしていいか分からなくて
at a loss は、「途方に暮れて」「何をすべきか、何を言うべきか分からなくて」という状態を表す慣用句である。予期せぬ出来事や困難な状況に直面し、思考が停止してしまい、適切な対応が思いつかない心理状態を指す。be at a loss for words(言葉を失う)という形でも非常によく使われる。この表現は、単に「困っている(in trouble)」や「混乱している(confused)」という以上に、無力感や当惑といった深い感情を伴うことが多い。ショッキングなニュースを聞いたとき、複雑な問題に対する解決策が見つからないときなど、精神的に追い詰められた状況で使われる。
日常会話では、感情的な反応や困難な決断を迫られた場面で使うことができる。例えば、When he heard the news of the accident, he was completely at a loss.(その事故の知らせを聞いたとき、彼は完全に途方に暮れていた)のように、衝撃的な出来事に対する反応を描写するのに適している。また、I’m at a loss as to what to do next.(次に何をすべきか、全く見当がつかない)のように、進むべき道が見えなくなったときの心境を表現するのにも使える。ビジネスの文脈でも、We are at a loss to explain the sudden drop in sales.(売上の急な落ち込みをどう説明していいか途方に暮れている)のように、原因不明の問題に直面した際に使われることがある。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、マーク・スピッツ選手が歴史的な7つ目の金メダルを獲得した直後のシーンで、ディレクターがルーン・アーレッジの指示に応えられない場面で使われる。ルーンはスピッツと両親が抱き合う感動的な瞬間を「そのハグの中にいたいんだ(I want to be in that hug.)」と、より親密で感情的な映像を要求する。しかし、固定カメラではそれ以上寄ることができず、The director is at a loss(ディレクターは途方に暮れている)と描写される。この表現は、従来のテレビ演出の限界に直面したディレクターの困惑と、それを超えようとするルーンの革新的なビジョンとの対比を際立たせている。この後、機動力のあるモバイルユニットを使うというアイデアが生まれ、テレビ史に残る感動的な映像が撮影されることになる。この at a loss という一言が、物語における重要な転換点のきっかけとなる緊張感を効果的に生み出している。
the real deal
本物/正真正銘のすごい人(モノ)
the real deal は、「本物」「正真正銘のもの」「掛け値なしに素晴らしい人(モノ)」を意味する非常に肯定的なスラングである。偽物や見かけ倒しではなく、実力や価値が本物であることを強調する際に使われる。人に対して使えば、その人が持つスキル、才能、カリスマ性などが並外れていて、誰もが認める存在であることを示す。物やサービスに対して使えば、その品質が最高級であることを意味する。He’s the real deal. と言えば、その人は口先だけでなく、確かな実力を持った一流の人物だ、という最大級の賛辞となる。
この表現は、スポーツ、音楽、ビジネスなど、様々な分野で優れた人や物を評価する際に広く使われる。例えば、That new quarterback is the real deal; he’s going to be a superstar.(あの新しいクォーターバックは本物だ。スーパースターになるだろう)のように、選手の才能を絶賛する場合に使う。また、I tried their pizza, and it’s the real deal. It tastes just like it does in Italy.(彼らのピザを試したけど、あれは本物だ。イタリアで食べるのと全く同じ味がする)のように、製品の質の高さを褒める際にも使える。この表現は、聞き手に「これはただ事ではない」「注目に値する」という強い印象を与える力を持っている。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、ボクシングの対戦カードについて話している場面で登場する。ジェフは、アメリカの「グレート・ホワイト・ホープ(白人の期待の星)」と呼ばれる選手が、キューバのテオフィロ・ステベンソンと対戦することに言及し、キューバ選手について This guy’s the real deal.(こいつは本物だ)と評価する。この一言で、テオフィロ選手が単なる対戦相手ではなく、圧倒的な実力を持つ恐るべき強敵であることが示唆される。続くセリフで「前の相手を30秒でノックアウトした」と具体的な強さが語られ、the real deal という評価が裏付けられる。スポーツ中継のプロデューサーであるジェフが使うこの言葉には、選手の能力を見抜く専門家の視点が反映されており、単なる試合ではなく、アメリカ対キューバという政治的背景も相まって、この一戦が大きなドラマを生む可能性を秘めていることを観客に予感させる効果がある。
in way over your head
(能力的に)手に負えない/自分の手に余る
be in way over your head (または be in over your head) は、「自分の能力や経験をはるかに超えた状況に陥っている」「到底手に負えない問題に直面している」という意味の慣用句である。文字通りには「頭のはるか上まで水に浸かっている」というイメージで、溺れかけていて自力ではどうにもならない、という切迫した状況を表す。仕事、人間関係、金銭問題など、あらゆる困難な状況に対して使うことができる。自分の手に余るほどの責任を負わされたり、理解できないほど複雑な問題に取り組んでいたりする人を見て、「彼(彼女)には荷が重すぎる」と評する際によく使われる。
この表現は、同情的に使われることもあれば、批判的に使われることもある。例えば、He’s a good guy, but he’s in way over his head as the new manager.(彼はいい奴だが、新しいマネージャーとしては完全に力量不足だ)のように、能力不足を指摘する文脈で使われる。また、I took on too many projects at once, and now I’m in way over my head.(一度に多くのプロジェクトを引き受けすぎて、今では完全に手に負えない状況だ)のように、自分自身の状況を説明するためにも使える。この表現は、単に「難しい(difficult)」というだけでなく、状況をコントロールできていない、というニュアンスを強く含んでいる。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、ABCニュースのエース記者であるピーター・ジェニングスが、テロ事件という重大なニュースをスポーツ中継のクルーが扱うことに対して懸念を示す場面で使われる。彼は、テロリストをどう呼称すべきかという議論の中で、And no offense guys, but you’re Sports. You’re in way over your head.(悪気はないが、君たちはスポーツ担当だ。完全に手に負えていない)と言い放つ。このセリフは、スポーツ報道とニュース報道のプロフェッショナリズムの違いを浮き彫りにし、物語に緊張感をもたらす。ジェニングスは、この事件の政治的・社会的な複雑さを理解するには、スポーツクルーの経験では不十分だと考えている。彼のこの指摘は、主人公たちが直面する困難の大きさと、彼らがこの未曾有の事態を乗り越えるために、いかに自分たちの限界を超えていかなければならないかを観客に示す重要なセリフとなっている。
pull the trigger
決断を下す/(思い切って)実行する
pull the trigger は、文字通りには「(銃の)引き金を引く」という意味だが、比喩的には「最終的な決断を下す」「思い切って行動を開始する」という意味で広く使われる慣用句である。特に、ためらっていたり、慎重に検討したりした末に、後戻りできない重要な決定を下す、というニュアンスが強い。「引き金を引く」という行為が持つ不可逆性(一度引いたら弾は戻らない)が、決断の重大さを強調している。ビジネスの交渉で契約を結ぶとき、大きな投資を決めるとき、あるいは個人的な関係で重要な一歩を踏み出すときなど、様々な状況で使われる。
ビジネスシーンでは、The board of directors finally decided to pull the trigger on the acquisition.(取締役会はついにその買収を実行することを決定した)のように、大きなプロジェクトの開始を意味する際に使われる。日常会話でも、We’ve been talking about moving for months; it’s time to pull the trigger and start looking for a new house.(何ヶ月も引っ越しの話をしてきたけど、そろそろ決断して新しい家を探し始める時だ)のように、計画を実行に移す決意を表すときに使える。この表現は、単に「決める(decide)」というよりも、行動への移行を強調し、しばしばリスクや覚悟を伴う決断であることを示唆する。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、ジェフが未確認の情報を元に「人質は全員解放された」というニュースを放送してしまった後、その判断を上司のベイダーに厳しく問い詰められる場面で使われる。ベイダーは You! You pulled the trigger. Not Roone.(君だ!決断を下したのは君だ。ルーンじゃない)とジェフを非難する。このセリフは、放送の最終的な責任が現場のプロデューサーであるジェフにあることを明確に示している。ベイダーは、たとえ最高責任者のルーンが放送を望んでいたとしても、「引き金を引いた」のはジェフ自身の判断であり、その軽率さを責めている。この pull the trigger という言葉の持つ重みが、誤報を流すという行為がいかに深刻な結果を招きかねないか、そしてテレビ報道に課せられた責任の大きさを観客に強く印象付けている。
gut-punch
腹に一撃を食らったような衝撃
gut-punch は、名詞としては「みぞおちへの強烈な一撃」、形容詞としては「腹に一撃を食らったような、強烈で不意打ちの衝撃を与える」という意味で使われる表現である。gut は「はらわた」「内臓」を意味し、punch は「パンチ」である。物理的な痛みだけでなく、精神的に非常にショッキングで、息が詰まるような感情的な打撃を比喩的に表す際に使われる。悲しい知らせ、裏切り、失望など、予期せぬネガティブな出来事がもたらす、身体的な感覚を伴うほどの強い衝撃を表現するのに適している。It was a gut-punch. と言えば、その出来事がどれほど精神的にこたえたかを効果的に伝えることができる。
この表現は、ニュースや物語の結末、個人的な体験などについて語る際に使われる。例えば、The ending of the movie was a real gut-punch; I didn’t see it coming.(その映画の結末は本当に衝撃的だった。全く予想していなかった)のように、作品が与えたインパクトを説明するのに使える。また、Losing his job was a gut-punch to his confidence.(失業したことは、彼の自信に強烈な一撃を与えた)のように、人の精神状態に与えた影響を描写する際にも用いられる。単に「ショッキング(shocking)」や「悲しい(sad)」と言うよりも、より visceral(内臓に響くような)で、生々しい感情を伝える力がある。
『SEPTEMBER 5|邦
題なし』では、ジェフがクルーに指示を出す場面で、この言葉が使われる。彼はタワーカメラのオペレーターに対し、And then push in. I want a gut-punch close-up of that terrorist.(そして寄っていけ。あのテロリストの、腹に一撃を食らわすようなクローズアップが欲しい)と要求する。このセリフは、ジェフが視聴者に与えたいと考えている映像のインパクトを明確に示している。彼はただテロリストを映すだけでなく、観る者の感情を激しく揺さぶり、事件の衝撃をダイレクトに伝えるような、強烈な映像を求めている。この gut-punch という言葉の選択に、彼のプロデューサーとしての野心と、視聴者を惹きつけるための過激な演出も厭わない姿勢が現れている。しかし、この指示に対してベイダーが「少しトーンを下げてくれ。これは陸上競技じゃないんだ」と諌めることで、報道倫理と視聴率追求との間での葛藤という、本作の重要なテーマが浮かび上がってくる。
on it
(それについては)対応中です/取り掛かっています
on it は、「(その問題やタスクに)既に取り掛かっている」「対応中である」ことを簡潔に伝える、非常に便利で口語的な表現である。誰かから仕事や問題を指摘されたり、頼み事をされたりした際に、「心配ない、もうやっているよ」というニュアンスで使われる。I’m working on it. をさらに短く、カジュアルにした言い方であり、特に職場やチームで素早いコミュニケーションが求められる場面で頻繁に使われる。このフレーズは、自分が状況を把握しており、責任を持って対処していることを相手に伝え、安心させる効果がある。
日常会話やビジネスシーンでの応用範囲は非常に広い。例えば、上司から Can you send me that report?(あのレポートを送ってくれるかい?)と聞かれた際に、既に着手していれば Done. I’m on it.(了解です。すぐやります)あるいは I’m already on it.(既に取り掛かっています)と答えることができる。また、友人が Did you remember to book the tickets?(チケットの予約を覚えてる?)と尋ねてきたときに、Yep, on it.(うん、やってるよ)と返せば、手際よく物事を進めている印象を与えることができる。この短いフレーズには、信頼性や有能さといったポジティブなイメージが付随することが多い。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、放送中に技術的な問題が発生した場面で使われる。ジェフが、解決したかどうかを技術ディレクターのジャックに尋ねると、ジャックはぶっきらぼうに On it.(対応中だ)とだけ答える。この短い返答は、生放送のコントロールルームという、常に時間に追われ、無駄な会話を省く必要がある緊迫した環境を非常によく表している。ジャックがベテランのプロフェッショナルであり、問題に対して冷静かつ迅速に対処していることが、この一言から伝わってくる。複雑な説明をする代わりに On it. と言うことで、「任せておけ」という自信と、今は話しかけるなという集中力が示されている。このように、文脈によっては、効率性だけでなく、プロフェッショナルの持つ独特の雰囲気を醸し出す言葉ともなる。
I-told-you-so look
「だから言ったでしょ」という顔つき
I-told-you-so look は、「だから言ったじゃないか」「言わんこっちゃない」という非難や得意げな気持ちが表れた顔つきや表情を指す面白い表現である。I told you so. というフレーズ自体が「だから私は言ったんだ(なのにあなたは聞かなかった)」という意味で、相手の失敗を指摘する際に使われる。それを look(表情)と組み合わせることで、言葉には出さないものの、目で「ほら、私の言った通りになった」と語っているような状況を描写する。この表情は、相手を少し見下したような、あるいは自分の正しさを誇示するようなニュアンスを含むため、向けられた側にとっては非常に腹立たしいものであることが多い。
この表現は、人間関係における微妙な心理戦を描写するのに非常に効果的だ。例えば、My friend ignored my advice and failed the test, then I gave him the I-told-you-so look.(友人は私のアドバイスを無視して試験に落ちたので、私は彼に「だから言ったでしょ」という顔をしてやった)のように使う。また、She knew she had made a mistake and couldn’t bear the I-told-you-so look from her mother.(彼女は自分が間違いを犯したことを分かっており、母親からの「言わんこっちゃない」という視線に耐えられなかった)のように、その表情を受け取る側の気持ちを説明するのにも使える。言葉よりも雄弁な「表情」に名前を与えることで、コミュニケーションの非言語的な側面を巧みに表現している。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、ドイツ人の気難しい技術者ヘルマンからケーブルを分けてもらおうとして、ジェフが失敗する場面で登場する。ジェフは、役所的な手続きを踏まないとケーブルは渡せないとヘルマンに一蹴される。それを見ていたベテランのジャックが、Jacques gives Geoff an I-told-you-so look.(ジャックはジェフに「だから言ったじゃないか」という顔つきをする)と描写されている。この一文だけで、ジャックが最初からこの結果を予測していたこと、そして若くて自信過剰なジェフが現実の壁にぶつかるのを見て、少しばかり溜飲を下げている様子が伝わってくる。言葉でのやり取りはなくとも、二人のキャラクターの関係性(経験豊富なベテランと、生意気だが有能な若手)や、現場の人間関係の力学がこの表情一つで巧みに示されている。
sweet-talk
甘い言葉で説得する/おだてて丸め込む
sweet-talk は、動詞で「甘い言葉で説得する」「おだてて何かをさせる」、名詞で「お世辞」「甘言」という意味を持つ口語表現である。論理や正論で相手を説得するのではなく、褒め言葉や心地よい言葉を使って相手の気分を良くさせ、自分の要求を聞いてもらう、というニュアンスが強い。そこには、ある種の計算や操作的な意図が含まれることがあるため、必ずしもポジティブな意味だけで使われるわけではない。相手をうまく「丸め込む」「言いくるめる」といった少しずる賢いイメージを伴うこともある。
この動詞は、ビジネスの交渉から日常の頼み事まで、幅広いシチュエーションで使うことができる。例えば、He tried to sweet-talk his way out of a speeding ticket, but the police officer wasn’t impressed.(彼は甘い言葉でスピード違反の切符を免れようとしたが、警察官は感心しなかった)のように、自分の都合の良いように状況を変えようとする試みを指して使う。また、She knows how to sweet-talk her boss into giving her a raise.(彼女は上司をおだてて昇給させる方法を知っている)のように、目的を達成するためのスキルとして描写されることもある。この表現は、コミュニケーションにおける戦略的な側面を浮き彫りにする。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、テロ事件の生中継のために、ABCが独占的に使用するはずだった衛星回線を、朝のニュースの時間帯に使えるように他局と交渉する必要が出てくる場面で使われる。通常、衛星回線の使用時間は厳密に決められており、変更は非常に難しい。この困難な交渉を前に、ベイダーはルーン・アーレッジに対し、Then you need to sweet-talk CBS.(それならCBSを甘い言葉で説得する必要がありますね)と言う。この sweet-talk という言葉の選択が非常に巧みである。これは単なる「交渉(negotiate)」ではなく、相手の感情に訴えかけ、ABCの特権を譲歩させるという、非常に高度な手腕が求められることを示唆している。伝説的なプロデューサーであるルーンの交渉能力やカリスマ性に対するベイダーの期待が、この一言に込められている。正攻法では無理な要求を、いかにして通すかというテレビ業界の裏側の駆け引きが垣間見えるセリフだ。
hell of a job
とてつもなく素晴らしい仕事/見事な働き
hell of a ~ は、「とてつもない」「ものすごい」「素晴らしい」という意味を強調するスラング表現である。a hell of a time(最高の時間)、a hell of a mess(ひどい散らかりよう)のように、ポジティブな意味とネガティブな意味の両方で使われるが、文脈によってどちらかは明らかである。hell of a job は、誰かの仕事ぶりや成果が並外れて素晴らしかったことを称える、非常に強い賛辞の言葉だ。You did a good job. や You did a great job. よりもはるかに感情的で、感動や驚きを伴った賞賛のニュアンスを持つ。インフォーマルな表現なので、親しい間柄の上司が部下を褒める際や、同僚同士で互いの健闘を称え合う際などに使われる。
この表現は、困難な状況を乗り越えて素晴らしい結果を出した人に対して特に効果的だ。例えば、Despite all the problems, you pulled it off. You did a hell of a job.(あらゆる問題があったにもかかわらず、君はやり遂げた。本当に見事な仕事だった)のように使う。また、That was a hell of a performance.(あれはものすごいパフォーマンスだった)のように、仕事だけでなく、スポーツや芸術など、あらゆる「出来栄え」を称賛する際に使うことができる。この表現を使うことで、相手への評価が単なる形式的なものではなく、心からのものであることが伝わりやすい。
『SEPTEMBER 5|邦題なし』では、テロ事件という未曾有の事態の中、24時間近くにわたって放送を仕切り続けたジェフに対し、最高責任者のルーン・アーレッジが声をかける場面で使われる。ルーンは、打ちのめされているジェフに I know it doesn’t feel like it, but you did a hell of a job today.(そうは感じられないだろうが、君は今日、とてつもない仕事をした)と告げる。人質全員が死亡するという最悪の結末を伝えた後であり、ジェフ自身は「大惨事だった(it was a catastrophe)」と自己評価している。そんな彼に対して、ルーンがこの hell of a job という最大級の賛辞を贈るシーンは非常に感動的だ。この一言は、結果の悲劇性とは別に、前例のない危機的状況の中で、プロデューサーとして最後まで職務を全うしたジェフの働きそのものを、ルーンが高く評価していることを示している。若きプロデューサーが、この過酷な経験を通してプロフェッショナルとして認められた瞬間であり、物語の締めくくりとして深い余韻を残す。

こんにちは、ゆぶろぐです。
映画の英語は、学習教材と違って、学習者向けに手加減された英語ではありません。生の英語が飛び交っています。一見、難しいように聞こえますが、次第にストーリーの展開に心を奪われながら、英語とストーリーの両方の魔力に引きつけられていくのです。▶映画は、普段日常生活では接することのない、様々な場面に誘ってくれます。その中で交わされている英語には、学校で学ぶ英語と少しばかり違った、口語表現やスラングがあふれています。▶このサイトでは、その独特の口語表現やスラングを主に映画から探してきて、紹介しています。中には、危険なフレーズや下品な言い回しもあえて取り上げてみました。それらは、実際に使うとアブナイものも含まれていますから、それは「知っていく」程度にとどめておいてください。
本名、吉成雄一郎(よしなりゆういちろう)。株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。専門は英語教授法。英語学習や英語教育に関する論文、著書、記事多数。
