■この映画のご紹介
断酒会に通いながら、13歳の娘アンナを育てるシングルマザーのシルヴィア。彼女の生活は、規則正しく、静かで、閉鎖的である。ある日、高校の同窓会に妹に連れられて参加した彼女は、ソールと名乗る男から執拗な視線を向けられる。その夜、ソールは彼女の家まで後をつけてくるが、翌朝、家の前で凍えているところを発見される。実はソールは初期の認知症を患っており、記憶がおぼつかない状態だった。この奇妙な出会いをきっかけに、シルヴィアの封印していた過去のトラウマが蘇り始める。記憶とは何か、そして過去とどう向き合うのか。ジェシカ・チャステインとピーター・サースガードが織りなす、繊細で心揺さぶるヒューマンドラマである。
■この映画で使われている会話表現とスラング
get loaded
酔っ払う/(ドラッグで)ハイになる
get loaded は、アルコールや薬物によって酩酊状態になることを指す非常に口語的なスラングである。loaded という形容詞はもともと「荷物を積んだ」という意味だが、スラングとしては「酔っぱらった」あるいは「(ドラッグで)ハイになった」状態を表す。get drunk や get high とほぼ同じ意味で使われるが、get loaded の方がより強い酩酊状態や、意識が朦朧とするほどの状態を指すニュアンスがある。特にアメリカ英語でよく使われ、パーティーで羽目を外して飲み過ぎたり、薬物を使用したりする文脈で頻繁に登場する。He got totally loaded at the party last night.(彼は昨夜のパーティーで完全に酔っぱらっていた)のように使うことができる。また、Let’s get loaded! のように、これから飲んで騒ごうという誘い文句として使われることもあるが、かなりインフォーマルで、場合によっては品位を欠く表現と見なされることもあるため、使う相手や状況には注意が必要だ。この表現は、単に「お酒を飲む」という行為以上に、意識を変容させるほどの影響を受けることを示唆しているため、依存症の文脈では特に重い意味を持つ。
映画『MEMORY メモリー』では、物語冒頭のAA(アルコホーリクス・アノニマス)のミーティングで、メンバーの一人であるホルヘが自身の経験を語る場面でこの表現が使われる。We all got our struggles, but we don’t need to get loaded over it.(誰にだって苦労はある。でも、そのために酔っぱらう必要はないんだ)。このセリフは、人生の困難に直面したときにアルコールや薬物に逃げるという行動を get loaded という言葉で表現している。AAのミーティングという文脈で使われることで、このスラングが持つ「現実逃避」や「自己破壊」といったネガティブな側面が強調される。ホルヘの言葉は、苦しみから逃れるために酔うという選択肢を断ち、シラフでいること(sobriety)の価値を分かち合う、というAAの基本理念を端的に示している。単なるスラングとしてではなく、依存症からの回復を目指す人々にとって切実な意味を持つ言葉として描かれている点が非常に印象的である。
make it on her own
独り立ちする/自力でやっていく
make it on one’s own は「自力で成功する」「独り立ちする」「自分の力で生きていく」という意味を持つ非常に一般的なイディオムである。ここでの make it は単に「作る」という意味ではなく、「成功する」「うまくやる」「成し遂げる」といった意味合いを持つ。on one’s own は「一人で」「独力で」という意味の句であり、これらが組み合わさることで、親や他人の助けを借りずに経済的・精神的に自立することを表現する。若者が親元を離れて一人暮らしを始めるときや、誰かの支援なしに事業を軌道に乗せたときなど、幅広い状況で使うことができる。例えば、After graduating from college, she moved to the city to make it on her own.(大学卒業後、彼女は独り立ちするために都会へ引っ越した)や、He left the family business because he wanted to make it on his own.(彼は自力で成功したかったので、家業を離れた)のように使う。この表現には、困難を乗り越えて自立を勝ち取るという、ポジティブで力強いニュアンスが含まれていることが多い。
『MEMORY メモリー』では、主人公シルヴィアの断酒13周年を祝うAAミーティングで、彼女のスポンサーであるカレンがスピーチをする場面で使われる。カレンはシルヴィアの娘アンナがいずれ成長して家を出ていくことに触れ、Anna will grow up. She’ll go away, to make it on her own.(アンナも成長する。いつか自分の力で生きていくために、家を出ていくわ)と語る。このセリフは、全ての親がいつか直面する子の巣立ちという普遍的なテーマを語っている。シルヴィアにとって娘のアンナは依存症を克服する大きな支えであり、生きる理由そのものである。カレンは、そのアンナがいなくなってしまったときにシルヴィアが孤独にならないよう、パートナーを見つけるべきだと心配している。この文脈で使われる make it on her own は、娘の成長と自立を喜ぶと同時に、それが母であるシルヴィアに新たな孤独をもたらす可能性を示唆しており、愛情と寂しさが入り混じった複雑な感情を喚起させる。自立というポジティブな言葉の裏に潜む、残される側の寂しさを浮き彫りにする効果的な使い方である。
