■この映画のご紹介
1966年から1968年にかけて放送されたテレビドラマシリーズ『怪鳥人間バットマン』は、現代のダークでシリアスなバットマン像とは一線を画す、明るくコミカルで、時に常軌を逸した「キャンプ」な作風で一世を風靡した。アダム・ウェスト演じるバットマンとバート・ウォード演じるロビンは、奇抜な悪役たちを相手に、真面目な顔で滑稽なセリフを連発し、視聴者を魅了した。カラフルな映像、擬音が飛び出すファイトシーン、そしてヒーローらしからぬ教訓めいた説教など、その独特の世界観は今なおカルト的な人気を誇る。
今回取り上げるエピソード「The Joker is Wild」は、シリーズを代表する悪役、シーザー・ロメロ演じるジョーカーが主役である。刑務所内の野球の試合を隠れ蓑に、奇想天外な方法で脱獄したジョーカー。彼は自らをコメディアンの殿堂に加えなかった美術館に腹を立て、大胆不敵な犯罪計画を実行に移す。バットマンとロビンは、ジョーカーが残した謎めいたヒントを解き明かし、彼を追い詰めていくが、ジョーカーもまた自身の「万能ベルト」を手にダイナミック・デュオを翻弄する。奇妙で愉快な言葉遊びとガジェットが満載の、まさにこのシリーズの魅力を凝縮した一本である。
■この映画で使われている会話表現とスラング
I’ve gotta hand it to you.
君には脱帽だよ/感心したよ
I’ve gotta hand it to you. は、相手の能力や行動、成果などを称賛する際に使われる非常にポピュラーな口語表現である。「君には一本取られた」「感心させられたよ」「君の勝ちだ」といったニュアンスで、相手を素直に認める気持ちを表す。gotta は have got to の短縮形で、「~しなければならない」という意味だが、このフレーズでは「認めざるを得ない」という強い感情を示す。hand it to someone で「(称賛や功績などを)相手に手渡す」というイメージを持つと分かりやすいだろう。普通は認めたくない相手や、予想を上回る活躍をした相手に対して、驚きや尊敬の念を込めて使われることが多い。
日常会話では様々な場面で応用できる。例えば、難しいプロジェクトを成功させた同僚に対して、I’ve gotta hand it to you, that was a brilliant presentation.(君には脱帽だよ、素晴らしいプレゼンだった)のように使うことができる。また、スポーツで自分より格下だと思っていた相手に負かされた時に、Well, I’ve gotta hand it to you, you played a great game.(ああ、参ったよ。素晴らしい試合だった)と健闘を称える時にも使える。皮肉として使われることは少なく、基本的にはポジティブな意味合いで使われる表現だ。
『怪鳥人間バットマン』では、刑務所内の野球場で、見事に更生したかのように振る舞うジョーカーの姿を見たオハラ警部が、刑務所の所長に向かって I’ve gotta hand it to you, Warden. You’ve certainly done a remarkable job with the Joker.(所長、あなたには脱帽です。ジョーカーを見事に更生させましたな)と感心の言葉を述べる。この時点では、オハラ警部はジョーカーが完全に改心したと信じ込んでおり、所長の手腕を心から称賛している。しかし、この直後にジョーカーが脱獄することを知っている視聴者にとっては、このセリフは非常に皮肉に響き、物語のアイロニーを際立たせる効果を持っている。
hardened criminal
常習犯/札付きの犯罪者
hardened criminal は、犯罪を繰り返し、良心の呵責を感じなくなったような、筋金入りの犯罪者を指す言葉である。harden は「硬くする」「硬化させる」という意味の動詞で、心が悪に染まって「硬化」してしまい、更生の余地がほとんどないというニュアンスが含まれている。日本語の「札付きの悪党」や「常習犯」といった表現に近い。ニュース、犯罪ドキュメンタリー、警察ドラマ、映画などで頻繁に使われる表現で、単に罪を犯した人ではなく、犯罪が生活の一部と化してしまった人物像を強調する際に用いられる。
例えば、ニュース記事で The police finally captured the hardened criminal who had been on the run for years.(警察は、長年逃亡していた札付きの犯罪者をついに逮捕した)のように使われる。また、裁判の文脈では The judge gave the hardened criminal the maximum sentence.(裁判官は、その常習犯に最高刑を言い渡した)といった形で登場する。この表現は、犯罪者に対して同情の余地がないことを示唆し、社会にとって深刻な脅威であるという印象を与える。
『怪鳥人間バットマン』では、オハラ警部がジョーカーの更生を信じ、刑務所長に The rehabilitation of a hardened criminal. It warms the heart.(常習犯の更生。心温まる話です)と語る場面がある。ジョーカーこそがゴッサムシティにおける hardened criminal の典型であり、そんな彼が野球に興じている姿を見て、オハラ警部は近代刑罰学の勝利だと感動している。しかし、これもまた壮大な皮肉であり、ジョーカーがまったく更生していないことを視聴者は知っている。このセリフは、権力者たちがいかにジョーカーの本性を見抜けていないか、そして彼の策略がいかに巧妙であるかを浮き彫りにしている。
