■このドラマのご紹介
HBO制作のドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』は、現代を生きる高校生たちのリアルで過激な日常を、スタイリッシュな映像と音楽で描き出す衝撃作である。主人公は、薬物依存症に苦しむ少女ルー。彼女の視点を通して、友人たちの愛、セックス、アイデンティティ、トラウマ、SNS、そして暴力といった、複雑に絡み合う問題が生々しく描かれる。シーズン2エピソード2「Out of Touch」では、ニューイヤーパーティーでフェズに殴られ重傷を負ったネイトが病院に運ばれるところから物語が始まる。意識が朦朧とする中でネイトが見る幻想と、彼を巡るキャシーとマディの関係、そしてルーが新たに出会ったエリオットとの危険な友情、自己嫌悪に陥るキャットの苦悩などが交錯し、各キャラクターの心の闇がさらに深く掘り下げられていく。
■このドラマで使われている会話表現とスラング
bring out the worst in someone
(人)の最悪な部分を引き出す
bring out the worst in someone は、「(人)の性格や行動における最も悪い側面を表面化させる」という意味を持つ慣用句である。普段は抑制されている短所、欠点、攻撃性などが、特定の人物や状況、環境との相互作用によって引き出されてしまう様子を指す。ここでの bring out は「(隠れているものを)引き出す、明らかにする」という意味で使われている。誰かと一緒にいるといつもイライラしてしまったり、普段ならしないような意地悪な行動をとってしまったりする場合、その相手が自分の「最悪な部分」を引き出している、と表現することができる。人間関係の化学反応によって、人の内面に潜む負の側面が露呈するニュアンスを持つ表現だ。
日常会話では、ストレスの多い職場環境や、相性の悪い人間関係について語る際によく使われる。例えば、My previous job was so stressful; it really brought out the worst in me.(前の仕事は本当にストレスが多くて、私の最悪な部分を引き出した)や、Arguments about politics always seem to bring out the worst in him.(政治に関する議論は、いつも彼の最も嫌な部分を引き出すようだ)のように使うことができる。
『ユーフォリア/EUPHORIA』では、この表現がシーズン2エピソード2の冒頭、病院に運ばれるネイトを見ながらのルーのナレーションで効果的に使われている。フェズに殴られ意識が朦朧とする中、ネイトは自分を介抱するキャシーに強く惹かれていく。ルーはネイトの内面を代弁するように、彼の複雑な心境を解説する。
台詞: But maybe the reason he had those issues is because Maddy brought out the worst in him.
日本語訳: 「でも、彼にそういった問題があったのは、マディが彼の最悪な部分を引き出していたからかもしれない。」
このナレーションは、ネイトがこれまで見せてきた暴力性や支配欲といった問題行動の根源が、元カノであるマディとの関係にあったのではないか、と彼自身が自己分析していることを示唆している。マディとの関係は常に緊張感と駆け引きに満ちており、それがネイトの破壊的な衝動を増長させていたのかもしれない、という解釈だ。
この表現には対義語として bring out the best in someone があり、「(人)の最も良い部分を引き出す」という意味になる。A good leader brings out the best in their team.(優れたリーダーはチームの最良の部分を引き出す)のように使われる。『ユーフォリア/EUPHORIA』のこのシーンでも、ネイトはキャシーこそが自分の「最良の部分」を引き出してくれる存在だと夢想しており、— she would’ve brought out the best in him.(彼女なら、彼の最良の部分を引き出しただろうに)というナレーションが続く。この対比によって、ネイトがマディとの毒のある関係から逃れ、キャシーとの関係に救いを求めている心理が鮮明に描き出されている。
weird someone out
(人)を気味悪がらせる、引かせる
weird someone out は、「(人)を気味悪がらせる」「不快にさせる」「引かせる」という意味を持つ口語的な表現である。weird は「奇妙な」「変な」という意味の形容詞だが、このフレーズでは動詞のように機能し、誰かの言動や特定の状況が、相手に居心地の悪さや不気味さを感じさせることを指す。単に「驚かせる(surprise)」や「困惑させる(confuse)」とは異なり、そこには少し不快感や気味の悪さといったネガティブなニュアンスが含まれるのが特徴だ。誰かが非常にパーソナルな質問を突然してきたり、常軌を逸した行動をとったりした際に「引いた」「気味が悪かった」と感じる、その感覚を表すのに最適な表現である。
日常会話では、友人間の会話などで頻繁に使われる。例えば、That guy on the train was staring at me the whole time. It really weirded me out.(電車であの男がずっと私を見ていた。本当に気味が悪かった)や、He started talking about his taxidermy collection on our first date, which kind of weirded me out.(初デートで彼が剥製のコレクションについて話し始めたので、ちょっと引いてしまった)のように使うことができる。
『ユーフォリア/EUPHORIA』のシーズン2エピソード2では、ネイトがキャシーとの幸せな未来を空想するシーンでこの表現が登場する。性交後、キャシーとベッドで寄り添いながら、ネイトが彼女に語りかける。
台詞: I don’t wanna weird you out or anything, but I can imagine starting a family with you.
日本語訳: 「君を気味悪がらせたくはないんだけど、君と家族を築くことを想像できるんだ。」
この台詞は、ネイトの幻想の中での出来事である。彼はキャシーとの関係が始まったばかりであるにもかかわらず、結婚や子供を持つことまで考えている。その考えが性急すぎること、そして相手を怖がらせてしまう可能性があることを自覚しているため、「君を引かせたくはないんだけど」と前置きしているのだ。この一言は、ネイトが抱くキャシーへの強い執着と、彼の衝動的な性格を浮き彫りにしている。同時に、現実の人間関係において、このような急な告白が相手に与えるであろう気まずさやプレッシャーを的確に表現している。この表現を使うことで、ネイトは自分の発言の異常性を認識しつつも、その感情を伝えたいという強い欲求があることを示している。
